第16話 決闘 上
決闘当日の朝。ノアの部屋の窓からは燦々と日差しが降り注いでいるのが見えた。絶好の決闘日和?だ。
普段はまだ寝ている時間帯だが、今日ばかりは流石に起床していた。起きて朝食を食べて、少しばかりトレーニングをすると床に座り、瞑想を始める。
数十分も立つと、ドアをノックする音が聞こえて来た。
「ノア。そろそろ時間だ。行くぞ。」
この声はリキだろう、と立ち上がり返事をする。
「今行くよ。少し待っててくれ。」
汗だくになった服を脱いで着替えてリキと一緒に家を出る。向かうのは村の中央にある巨大な建物。中には円形に座席が敷き詰められており、中心に決闘用であろう空間がある。
所謂、闘技場のようなものだ。
「お前ならボスにも勝てるさ。負けた時はまあ....骨ぐらいは拾ってやるよ。」
「ああ。そのために今までやってきたんだからな。」
闘技場に着くとリキに激励される。ノアはそれに不敵に笑って答えると控室に向かって歩いて行った。
リキはノアの努力を間近で見て来た。ノアがこの村に来てからどれだけ修練を積んだのかを。最初こそ人間だということで冷たく接していたが、ノアが必死になって鍛錬をする姿を見て自分は何をやっているのか、という思いに駆られたのだ。こんなくだらないプライドを守っている暇があるのならもっと強くなれるのではないか、と。
ノアの努力を、執念を垣間見たのだ。
「頑張れよ。」
そう1人呟くと、観客席に向かって歩き出した。
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決闘の時間が近づくと徐々にスタジアムの話声が大きくなっていく。
審判に呼ばれて入場すると、一際歓声が大きくなった。そんな中、2人はお互いに声を掛け合う。
「よぉノア!全力で掛かって来いよ?じゃないと面白くねぇ!」
「勿論。余裕を残してマスラオウに勝てるとは思ってないしね!」
審判が決闘についての説明を行う。この決闘のルールは相手を殺してはならない、ということだけだ。
もっとも、集中しているノアには聞こえていないが。
(落ち着け。俺なら勝てる。マスラオウを倒して更に強く....!)
審判の声が響く。
「始め!!!」
両者同時に地を蹴って、拳を振りかぶる。真正面に突っ込み、腕を振り抜くと拳がぶつかり合う。
衝撃で鈍い音がなり、粉塵が舞う。
「おいノアァ!得物は使わねえのか!?」
ノアは今日、愛用の剣を持って来ていない。マスラオウと闘って、認められるのなら拳で、と決めていた。なけなしの
だからこそ——
「ああ!必要ないからな!」
こう答える。
マスラオウの殴打を正面から受け止める。体格差からして潰されてもおかしくないが、ノアは微動だにせずそれを受け止めている。
それを可能にしているのは、天進流の基礎である、「流星」という技だ。これは、受けた衝撃をそのまま身体に通すのではなく、身体を通じて地面に衝撃を逃すという技術だ。天進流では、これが出来なければ入り口にも立てない、と言われるほど重要なものでもある。
マスラオウの乱打をすべて流すと、ノアも攻勢に転じる。
「流星」を利用した特殊な歩法で前に出ると、足払いを仕掛ける。あっさりと跳んで避けられてしまうが、そこに掌底を叩き込む。すると、マスラオウは掌底の衝撃で吹っ飛んでいく。
今、ノアが避けられるとわかっていて足払いをしかけたのは相手を浮かせるためである。天進流同士の闘いでは、地に身体の一部分がついていれば受けた衝撃を「流星」で受け流してしまうため、相手を浮かせて「流星」を封じる必要があるのだ。
(浮かせることには成功....!だけどありゃあ全然効いてないな。)
マスラオウは何事もなかったかのように立ち上がる。
「ハハハッ!!やるなぁノア!次は俺の番だな!!」
そう言うと一瞬で姿がかき消える。
一年間の修行で培った危機察知能力が警鐘を鳴らす。
(上か!!)
腕で防御するが、マスラオウの踵落としの衝撃で地面がひび割れる。威力が高く、全身が
「があぁっ!!」
更に踵落としの態勢から、「空歩」を使用して空を足場に反対の足で蹴りを繰り出す。
防御が出来ず、ノアは闘技場の壁に激突する。
先程述べたように、「流星」を無効にするには相手を浮かせる必要がある。しかし、ダメージを与えるだけならば、「流星」で地面に受け流せる衝撃を超えるものを相手に与えればいいのだ。これは常人にはほぼ不可能と言っていいほどに難易度が高い。だが相手はマスラオウだ。人間としての常識などまったく通用しない。
「この馬鹿力が!!ふざけやがって...!」
まさに理不尽、という膂力と身体強度に文句を言うが、現にこちらの攻撃は通っていない。ゆえにノアは頭を高速で回転させる。
(駄目だ...。あっちの攻撃は通るのにこっちのはほとんど効いてない。このままじゃジリ貧だ。やるなら勝負は一撃。それまではあいつの体力を削ることに努める....!)
口から血を吐き出す。
(勝つんだろ。あいつに!)
自分を叱咤して立ち上がり、一層決意を固める。
自分を奮い立たせるために叫ぶ。
「行くぞマスラオウ!!!」
そしてノアは再び地を蹴った。
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