第18話 次の目標

ノアがマスラオウを倒した日の翌朝。決闘から一晩が経った。


現在ノアは、自分の家のベットで横になっている。傍らには女性のエイプがノアの容体を見ている。リキの妻であるアンリだ。


あの決闘の直後、ノアは気絶して倒れてしまった。その後目覚めるも、全身筋肉痛や闘気の使いすぎによってアンリから絶対安静を言い渡されたのだ。


「ああ〜全身が痛え....」


「当たり前でしょう。あんなに激しいダメージを受けた上に闘気も全力で練るなんて...自殺行為よ?ボスにしてもこんな子供に大怪我させるなんて....まったく!」


痛みにぼやくもアンリからお小言をもらってしまう。マスラオウはノアを1人の戦士として扱っている節があるが、アンリは子供として見ている。とにかく過保護なのだ。


アンリの小言を聞き流しているとドアが開き、リキが入ってくる。


「おはようノア。アンリ、なんか必要なものあるか?あるなら取ってくるけど」


「ううん。今は大丈夫よ」


「おはようリキ。なんか食い物が欲しい」


「お前には言ってないよ。もう朝飯は食っただろ」


どさくさに紛れて食べ物を要求するもあっけなく却下されてしまう。朝ご飯はお粥だけだったのでお腹が減っているのだ。


「腹減ったんだよ...。そういやマスラオウは今どうしてるんだ?」


「ん?ボスならもう元気だよ。今も闘技場で他の奴らと模擬戦してるぞ?」


「はあ!?俺はこんな寝たきりなのに!?」


「そりゃあ年季が違うし。そもそも闘気を使い切るなんて普通は不可能なんだよ。自業自得だ」


今リキが言った通り、闘気を使い切るというのは通常は不可能なのだ。原理的には可能だが、人体でいうところの血液を全て体外に出すことに等しい。なので無意識のうちに出力をセーブしてしまうのが普通であり、使い切れたノアがおかしいというのは事実である。


「それと、お前が回復したら宴をやるってよ。だからさっさと治せ、だとさ」


「宴ぇ?それまたなんで」


「お前の勝利を祝うために決まってるだろうが。後でぶっ倒れたとしてもボスに勝ったことに変わりはねえ。ましてや最後に見せた闘気。これまででも数人しか使えなかった闘気色を発現させたんだ祝わねえほうがおかしいんだよ」


「マスラオウの奴は酒飲みたいだけの気がするけどなあ....」


理由の五割はそれだろう。宴の件を伝えるとリキとアンリは退出していった。


やることがないので決闘のことについて考えを巡らせる。


(最後に出た闘気色....。あのときは無駄に気分が良かったが逆に思考は酷くクリアだった。闘気と身体が一緒くたになったようなあの感じ....。まるで息をするように闘気を練れたし手足のようにそれを操れた。あの状態を維持できるようになればもっと強くなれる)


己がまだまだ強くなれるということに笑みを浮かべる。しかし、今は絶対安静なので運動は出来ない。その事に気づくと落胆し、寝たきりでも出来る魔力操作の訓練を始めるのだった。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




三日後。村の中央広場では、筋肉痛や闘気切れが完全回復したノアの快気祝いが開かれていた。


設置された舞台の上に立っているのはマスラオウとノア。周囲の注目が集まったのを確認すると手に持ったカップを掲げてマスラオウが叫ぶ。


「そんじゃ、ノアの勝利と闘気色の開花を祝って——



     「「乾杯!!!」」



それを境にして宴は始まった。騒いでいるのはエイプだがそれ以外は人間となんら変わらない。その中に1人だけ人間が混じっているというのは違和感がある。だがそれを感じさせない程に彼らは馴染んでいた。


「よくやったな!ノア!」


「まさかボスを倒すとは思わなかったぜ!」


「おめでとよ!生きてる間に色が開花するのを見れるとはな!」


と、次々にノアに声をかけてゆく。


「ガハハハハ!まっさか戦闘中に闘気色を解放するとはなぁ!!」


祝いの言葉を一通り聞くと最後にマスラオウが話しかけてくる。


「ま、あの時は俺も無我夢中だったしな」


「色をつけられるようになったんならもう一人前だよ。お前は........てことで飲め飲め!」


「ちょ!まだ未成年だっての!!やめろ馬鹿野郎!」


酒を無理矢理飲ませようとしてくるマスラオウに抵抗するも病み上がりの身体では流石に無理があったようで酒瓶が近づいてくる。


もう駄目か—と思った瞬間


マスラオウがお盆で頬を叩かれて吹き飛んでいった。後ろにはアンリが立っている。


「な・に・や・っ・て・ん・の・?こんな子供にお酒飲ませようとするなんて何やってんのよ!」


「そいつももう一人前の男だろうが!酒ぐらい大丈夫だよ!」


「大丈夫な訳ないでしょ!ボスとは違うんだから!」


そう言ってアンリが去っていく。去り際にもう一度マスラオウの頭を叩いている。


(あのマスラオウを吹き飛ばすだと.....?もしかしてあの人が本当のボスじゃねえだろうな)


それを見てこんなくだらないことを考えるも途中でマスラオウに話しかける。


「そういやお前、俺から学ぶのが目的だったんだろ?俺に勝ったんだから次はどうすんだ?」


「勝ったっつってもギリギリだっただろ。まだ学ぶことはある」


「もっと大きな目標だよ!ガキなんだからなんかねえのか?」


酒を飲みながらの問いに少し考える時間をかけて答える。


「まあ大きなっていうなら....次の目標は

        だな。」







_________________________________________


試験終わりました!結果は....まあ....。

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