第14話 修行前

マスラオウに面会した日の夜。

ノアは1人リキに案内された部屋でもの思いに耽っていた。


マスラオウに何のために力を求めるか、と聞かれて最初に思い浮かんだのは母親のためなどではなく、父と弟を無惨に殺すことだった。母親の仇を討つためではなく他でもない自分の鬱憤を晴らすためだけにあの2人を殺すことを思い浮かべたのだ。


(これじゃあ私欲のために人を殺すあいつらと何も変わらない。手段と目的が逆になっていることに今気づけてよかったと思うべきか..。)


復讐なんてものは所詮自己満足の代物だ。死んだ人間がそんなことを望んでいるかはわからないし、仇を殺したからといって死んだ人は戻って来ない。


(それを全部呑み込んだ上で俺は復讐することを選んだ、そう思っていた。でも実際はそうじゃなかった。そもそもあの2人を殺しても俺の復讐は終わりじゃない。殺害を計画したのは確かに父だが実行に移したのは違う人間だ。その過程で何人殺さなきゃいけないことやら、嫌になってくる。)


それでもノアは復讐をやめるわけにはいかない。やめるなら今すぐこの森を出て一般人として暮らせばいい。それをせずにこの森に留まり、力をつける決心をしたのは自分自身なのだ。


(絶対にやり遂げるしかない、か。)


いっそう復讐への決意を固めるとノアは座っていたベッドに寝転び、睡眠をとる体勢に入る。


もっとも意識が落ちたのは寝転んでから3時間以上経ってからのことだった。





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翌日、ノアは昨日リキに言われていた修行の場に向かっていた。向かっているのは、木が生い茂った森の中である。


少し進んでいくと、整地されたような広場が現れる。その真ん中にはマスラオウが立っていて、周りのエイプ達はボスがいることに萎縮してしまっている。


(すげぇ存在感。やっぱ猿王の名前は伊達じゃない、ってことか。)


近くに歩いていくと、マスラオウはすぐにノアに気づく。


「おう!やっと来たのか!遅えぞノア!」


「時間通りに来たはずだが...。いつから待ってたんだ?」


「明け方ぐらいからだな!お前に修行つけるってことで気分上がっちまってよ!」


「早すぎだろ!集合時間考えろよ!」


(遠出するときの子供か!)


不遜なことを考えるが、口に出すとどうなるかわからないのでぐっと抑える。 


「ん?待ててことはお前が俺に直接教えんのか!?」


「ああ!その通りだ!なんか文句でもあんのか?」


「い、いや、文句はないけど長としての仕事とかは大丈夫なのかよ?」


正直に言って感覚派っぽいマスラオウに教わるのは常人なら不安が残る。なのでオブラートに包んで文句を言ってみる。


「それなら問題ねぇ!リキの奴に任せて来たからな!あいつは頭がいいからうまくやるだろ!」


(伝わんねぇー!暗に変われって言ってんの!これは!)


「そ、そうかならよろしく頼む。」


指導役を変えることは諦め、今日の修行内容に話を進めることにする。


「で?今日は何をするんだ?最初だから模擬戦からか?」


「お前の実力ならリキの野郎からだいたい聞いてる。まずやるのは基礎的な部分からだ。とりあえずは筋力を鍛えることから座禅や滝行だな。健全な精神と肉体に技は宿るもんだ。今でもかなり鍛えてるのは分かるがまだ足りないだからまずは走り込みだな!この障害物の多い森を走るコースだ!まずは俺が先導するからついて来い!!」


そう言い残すとマスラオウはさっさと走って行ってしまう。ノアのほうには見向きもしない。これぐらい出来なければならないということだろうか。


少なくともノアはそう受け取ったようだ。


「上等!すぐに追いついてやるよ!」


そしてノアも走り出す。無論スキルも使用しているが中々差は縮まらない。


森の中にノアとマスラオウの声が延々と響いていた。






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テスト期間に入るので更新頻度が下がります。

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