第9話 vs赫熊

鬱蒼と木々が茂った森の中。普段は静寂に包まれたている場所で激しい破砕音が響いている。


ノアと熊の戦闘は既に始まっていた。最初は様子見だったものの、一方が仕掛けた途端に遠慮はなくなった。


熊の腕が地面に振り下ろされるだけで地面が揺れる。膂力では万が一にもノアに勝ち目はないだろう。先程解析したところ、熊のステータスはこんなものだった。




種族名   赫熊レッドグリズリー


状態    興奮


赤黒い体毛と鋭い爪が特徴。非常に好戦的な性格をしており、一度戦いになると相手を殺すまで止まらない。毛皮は赫狼よりも硬く、加工が難しい。故に高値で取引される。


危険度   A −





(危険度A−は流石に早いだろ!今本気で戦っても勝てるかどうかわからないし....。まあ...やるだけやってみるか!)


自身の力試しにもなる。そう考え、身体強化、俊足、豪脚をフルで発動する。力では敵わないと先程わかったため、ヒット&アウェイでいこう!という作戦である。


熊がこちらに向かって爪を振り翳す。ノアはそれを転がって避け、すれ違いざまに斬りつける。しかし熊の皮が思いの外硬く、傷は浅い。


(浅すぎる!これじゃ致命傷を与えられない!)


焦るノアをおいて赫熊は攻撃を続ける。振り下ろして来た爪をジャンプで横っ飛びに躱す。そのついでにと剣を振るが、赫熊は態勢を変え、空中で身動きの取れないノアを思い切り殴る。


咄嗟に腕をクロス。赫狼の[硬身]も発動させる。何度か地面をバウンドした後、木に激突。


「カハッ!」


(今の攻撃は飛ぶのを狙ってやってやがった...。これまでの魔物とは格が違うな。)


近づいて来る赫熊に向かって手の平を向け、こう呟く。


「ウィンドカッター。」


すると風が吹き荒れ、赫熊の肩に大きな切り傷ができる。


赫熊は突然の傷に動揺している。この隙に態勢を整え、剣を構える。


今、ノアが使ったのは中級風魔法 ウィンドカッターである。この世界には魔法というものが存在する。これは属性ごとにわかれており、火、水、土、風、雷、光、闇、の7属性がある。一応適正というものがあるが、適正がなければその属性は使えないのかと言うとそうではなく、習得が難しい、もしくは大成しない、ということだ。ノアは確かに無能と呼ばれていたが、剣術や魔法に関しては神童と呼ばれるほどの腕前だった。


今までノアが戦闘において魔法を使ってこなかったのは、スキルの練度を上げるためである。魔法を使ってしまうと、スキルの上達に繋がらない。と考え、魔法は封印していた。


(だけどそろそろ魔法とスキルの組み合わせも試したかったし丁度いいかな。まだ目に見える傷は負ってない。ちょっと骨折れたかもだけどそれくらいなら[自己再生]で多分いける。)


赫熊を倒すには火力が足りない。先程のウィンドカッターでも恐らく首は落とせない。だが森の中で火魔法は厳禁。最も適正のある風魔法で対応する。"風纏"という魔法を使い、足と剣にも風をまとう。


赫熊が地面を叩くと土が槍のように盛り上がっていく。


(こんなこともできんのかよ!?)


ここはスピード勝負。風を足裏で暴発させて加速。空中に飛び出した所を狙って赫熊が腕を振るう。それを無理矢理 風魔法で軌道を変えることで赫熊の背後に回り込む。


赫熊が振り向こうとするももう遅い。風を纏わせた剣で思い切り首を斬りつける。

生きていた場合に備えてすぐさま距離をとるも赫熊の首がずり落ち、身体がどさりと倒れる。


「あー!疲れた!今気づいたけど肋骨折れてるし....。明日には治ってるかな?」


(首を斬った手が震えてる...。流石に無理しすぎたかな。足も結構やばいし。これが肉体強度の問題か....。)


「今襲われたら赫狼でも勝てる気がしねえ....。毛皮の剥ぎ取りは諦めるか。」


そう言ってノアは去っていった。二度目の死闘でも勝利を納めたが、その顔は自分の成長が嬉しい。とでもいうように満面の笑みを浮かべていた。

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