第8話 くまさん

アルクーツクの森に放り出されてから早一週間。


そろそろこのサバイバル生活にも慣れてきた所である。この一週間で倒した魔物は赫狼とホーンラビットのみ。赫狼は毛皮を集めて服を作ることに使用する予定だが、もう一つの目的であるスキルの進化はまだ達成することが出来ていなかった。


「そろそろ進化してもいい気がするんだけどなあ。そんな上手くはいかないか。」


今も狩りの最中である。これまでに倒した赫狼の数は24頭。初めは腕を食われたトラウマからか上手く倒すことが出来なかったが、数をこなせば人は慣れるものである。今では複数体を相手どっても倒すことができるようになってきた。


気分転換に違う魔物でもかろうか。などと考えているとその考えを否定するかのように赫狼が現れる。同胞の血の匂いを嗅いだからか既に臨戦態勢だ。


「飛んで火にいる夏の虫ってな。どっかの地方の言葉だけどっ!」


ノアもすぐさま剣を構え斬りかかる。躱されてしまうが、元々それを想定していたのか落ち着いて対処していく。


赫狼が姿勢を低くして突っ込んでくるが、ノアはそれを完全に見切っていた。横に避けつつ垂直に剣を振り下ろす。


勝利を確信したその時ー


隠れていたもう一匹の赫狼がノアの首を目掛けて飛びかかる。


「読めてんだよ!」


無理矢理体を方向転換させ、飛びかかって来た赫狼を両断。対応されると思っていなかったのか動きを止めてしまったもう一匹にも剣を振るいとどめを刺す。


「結構余裕を持って対処できるようになってきたな。この調子この調子!」


ノアが先程赫狼の奇襲に対応出来たのは新たに獲得したスキル[嗅覚強化]が関係している。このスキルは赫狼の中の一体が持っていたものであり、効果はその名の通り嗅覚を強化するというもの。匂いを嗅ぎ分けることで相手の居場所や数。毒物の有無などを感知することができるスキルである。 


使い始めたばかりなので練度も低く、大まかな位置しか掴むことが出来ないが、それなりに応用のきくスキルということもあり重宝している。


(嗅覚強化によればまだ後何匹かこの辺りにいるな.....。こっちから仕掛けてみるか?)


草むらの向こうにいる五匹の赫狼目掛けてノアは走り出す。ノアに気づかなかった一匹を即座に始末。これで残りは四匹。


近くにいた二匹が攻撃してくるも[俊足]と[身体強化]の効果で強化された移動速度をもって難なく躱す。


そして隙ができた一匹に[豪脚]を使って蹴りを撃ち込む。ぐちゃり、と嫌な感触が足に伝わり顔を顰めるもこれで残りは三匹。


個々では敵わないと思ったのか連携して襲いかかって来る三匹をいなしつつ一匹を斬る。

残りは二匹。相手をしようと真正面を陣取る。


「なっ....!」


しかしその二匹は既に息絶えていた。背後に潜んでいた巨大な熊の手によって。


赫狼と同じような赤黒い体毛。目は赤く、腹が減っているのか口からよだれを垂らしている。体長は3mほどで身体はかなり筋肉質だ。


一瞬で赫狼二匹を屠ったことからわかるようにランクはかなり上。今のノアでは少し荷が重い相手である。


(ここまで接近されてまったく気づかなかった!?)


やはり[嗅覚強化]の訓練が必要だと考えるが今はそんなことを考えている場合ではない。


「やるしかない....か。」


森に来てから二度目。ノアにとっての格上との戦闘が始まった。

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