第5話 高校生、この世の真理を見つける

 俺の分身である新人Vtuber美鈴咲は後発のVtuberとしては異常なほどの急成長を見せ、個人VtuberとしてすでにTOP10に入る登録者数75万に達している。

 その飛躍には泉、もとい烏城という生きるネット上の伝説がプロデュースしていることが大きかった。    

 イラストはイラストレーターとしての烏城、3Dアバターは3Dモデラーとしての烏城、配信に必要なソフトは烏城が一般に公開していない自作ソフトを使っているのだから、注目されて当然だった。

 しかも、ボカロPとしても有名である泉が、オリジナル曲まで提供しているのだから、ネット上では美鈴咲の正体を探るスレまで出てくるほどだった。


「俺の正体はバレていないと」


 俺は、Vtuberの前世をまとめているサイトを見て、安堵した。

 今の時代、写真のGPS情報や、写真背景なんかで簡単に正体が特定されてしまう。現に先輩Vtuberの何人かはすでに本名や出身校までがネット上の海に公開されてしまっていた。


「まあ、俺よりも泉の方がすごすぎるな」


 泉は幼少の頃にパソコンを持たされてから、ほとんど独学であらゆるネットカルチャーに精通するネットの伝説となってしまったらしい。しかもその正体はほとんど明かされずに、企業との取引などはほとんど姉にまかせているようだった。

 そんなことを考えながら、美鈴咲に関するまとめサイトを見ていると、サイトの内容がほとんどそれソースはなんですか? といった様相で思わず笑ってしまう。


「えーっとおそらく、アラサーくらいの年齢だと思われネット上で前世と言えそうなものはないと」


 俺はピチピチの16歳なので配信の最中に話題にしていたアニメなどから想像したのだろう。


「ネットの内容は簡単に信用してはいけない。だからといって現実の出来事が信用できるとは限らないねえ」


 泉の言葉にこの世の真理を見つけた気がして俺は笑ってしまった。


「どう聞いても女の子の声だとしても女とは限らないし、どう見ても美少女だとしても女とは限らない。この世に信じられるものってあるのかな」


 少なくとも片方は自分自身のことなのだけど、俺は思わずそうひとりごちた。

 そうやってネットを徘徊して時間を潰していると、玄関の空いた際の小さな衝撃音が耳に入ってきた。


「やっと帰ったか」


 そう言って、俺はカーテンを締め切った窓を見た。学校が終わったあとはその窓から、家が隣の幼馴染と遅くまで話していたことを思い出す。


「なんでこうなっちゃったかな」


 俺は、今も妹とは仲良くしている幼馴染のことを考えてから、すぐに頭を振った。


「いや、今はチチちゃんと会うために妹に替え玉を頼まねば」


 幼馴染が帰ると、俺は3分ほどSNSで時間を潰してから、妹がいる1階のリビングへと降りていった。

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