第4話 理性と道理が駄目だと言っても、やめられないことはある。

*1話最後の場面(入学式から3ヶ月後)の続きです。


 配信開始の挨拶を終えたあと、俺は、食器になって食品をやっつける謎の洋ゲーの実況をしていた。


「このクソザコウインナー! 早くやられちまえ!」


 男性視聴者が喜ぶようなセリフを言うのなどお手の物だった。なぜなら自分自身が男だから。それを証明するように先程からスパチャはものすごい勢いで増えている。


「ご褒美だッ!!」


 目では追いきれないほどのスピードのコメント欄の中にちらりとご褒美発言を見て、方向性が間違っていないことを確認すると、Google様に怒られないほどにセンシティブな発言でリスナーを盛り上げる。


「このウインナー強すぎ! やられちゃうぅ!」


 ぶりっ子がみたら同族嫌悪で悶そうなほど媚を売りながら、俺は時計を確認して配信の終わりにちょうど良さそうだと判断する。


「あーーーーん! 難しいよぅ!」


 そのまま、操作ミスを装って巨大ウインナーにノックダウンされると、配信の終了をアナウンスする。


「今日はありがと! またお前らと一緒にゲームするからな!」


 そう言って、配信を終了すると、俺はため息をついて、スマホを確認する。VtuberにとってはTwitterの確認も仕事のうちだった。

 すると、いつもは無視しているDMの中に有名VTuberの名前を発見した。個人勢の中では登録者数125万人でトップを誇るVtuberだった。ちなみに俺がやっている美鈴咲というVtuberは75万人も登録者がいる。


「涙子おねえさんねえ」


 企業系のVtuberが出てくる前からの古参で企業系のVtuberしか見ないような層でも名前は知っているくらいの有名人だ。


「コラボの打診か」


 内容はもうひとりのVtuberと合わせて3人でコラボ配信を行って個人勢Vtuberとしてお互いに頑張ろうみたいな感じだった。メールの最後には受けてくれるなら東京で打ち合わせをしましょうといった内容が書かれていた。


「無理だな」


 今までも登録者数の違いはあれど、こういった誘いは断っていた。美少女Vtuberなのに中身は男なのだから、無駄な接触は避ける方針だった。今回も断ろうと、一番下までスクロールしたところでメールの末尾に付け足したように文言が書かれていることに気がついた。


「あ、書くの忘れていました! コラボ相手はチチちゃんです! もう了解は取ってあります!」


 その名前を見た瞬間、理性がダメだと叫んでいるのにも関わらず、俺の指は勝手に了承の返事を打っていた。


「はッ!? やっちまった!」


 打ち終わってしまい取り返しがつかなくなってしまってから俺は頭を机に打ち付けた。

 チチちゃん、登録者数100万人のロリ系癒やしボイスで数多くの社畜の男性を虜にしているVtuberだった。


「俺はロリコンじゃない……はずだ」


 しかし、そんなことを言っても、理性と、道理が駄目だと言っていても、自分が唯一スパチャを投げるほど好きなVtuberの正体が気になってしまった。

 次の瞬間には、どうにかコラボを実現するために、どうやって今は1階で幼馴染とゲームをしているはずの妹に替え玉を頼み込むのかを考えていた。

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