ほたる

ただの柑橘類

ほたる

 ぽつり、ぽつり、ぽつり。

 ぽとん、ぽとん、ぽとん。

 ほたるがとんで、おちていく。

 おにいちゃんと、ほたるのみちをあるいていく。

 おにいちゃんは、いつもわらっている。ずっと、わらっている。

 ざあざあと、ほたるのあめがふる。ひゅんひゅんと、ほたるのみちをとおりすぎていく。

「みずをおくれ」

 ほたるのみちにいたおじさんがいう。でも、おみずはもってないよ。

 からすがないてる。おうちにかえらなきゃ。

 あれ? でも、おうちって、どこだっけ?

 おにいちゃんがてをひっぱってくれて、くらい、くらい、どうくつのなかをすすんでいく。

 おくに、おくに、すすんでいく。

 まっくらなばしょについたら、おにいちゃんがくちにゆびをあてて、しーってした。

「しずかにしとらんと、ぼうをもったおにがやってくるんだぞう」

 なあんだ、おにごっこをしているのね。おにいちゃんとわたしは、おにからにげるひとなのね。

 どおおん。でっかいほたるがおちるおとがした。

 おにいちゃんは、わたしをぎゅっとだきしめる。

 おにいちゃんのこえがきこえないくらいうるさくて、みみをふさいだ。


 ぱちり。おきたら、おにいちゃんのせなかにいた。ほたるのみちを、ゆっくりあるいてる。

「おきたか? もうだいじょうぶ、おにいちゃんがまもるからな」

 おにいちゃんは、やっぱりわらっている。

 どんどん、どんどん。おにいちゃんのたいこのおとがきこえる。

 ぽこぽこ、ぽこぽこ。わたしのたいこは、でんでんたいこ。

 おにいちゃんのたいこは、でっかいたいこ。

 まわりは、ほたるでいっぱい。


 よるになって、おにいちゃんが、ほたるがいないみちにすわっちゃった。

 ねっころがって、おほしさまをみあげてる。

 わたしもまねして、ねっころがる。

「みてみ。あれがでねぶ、あるたいる、べがじゃ。さんかっけいができとるな」

 ゆびをさされたけど、どれがどれかわからない。

「にいちゃんな、おおきくなったらとりさんになってそらをとびたいんじゃ。いつまでもおそらをとんでいたいんじゃ」

 わたしも、おそらをとびたいな。

 とりさんになって、そらをとびたいな。


 ぱちり。おきたけど、おにいちゃんがまだおきてないや。

 おきるまでまとうかな。



 おにいちゃんがおきない。


 おにいちゃんがわらわない。


 おにいちゃんのこえがきこえない。



 おにいちゃんのたいこが、きこえない。



 きこえない。




 きこえない。




 みちをあるいた。

 おじさんは、もういなかった。

 ほたるは、みんなしんじゃった。


 じゃあ、これはなんのみち?

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ほたる ただの柑橘類 @Parsleywako

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