第249話 女帝 -EMPRESS-(3)
──蟲の軍勢が、ツルギ岳より襲来。
飛翔で一気に城塞へ到達する個体はほんの一握りで、多くの個体は一度周囲の森の樹上へと降り、そこから歩いて移動する。
うち、移動の最中で
城へ尖兵の蟲が、飛翔で一体到達。
城塞内へ降り立とうとしたそれを、メグリが跳躍して宙で鮮やかに解体──。
バラバラで落下する蟲の死骸越しに、メグリは正面の女帝を睨みつける。
「……どうやらあんたも、狙いをわたしたちに絞ってるみたいね! いいわよっ、雌雄を決しましょう! ここにいるの、全員メスだけどねっ!」
女帝は返事をするように、両目を細めて笑みを強めた。
しかし顔以外の部位は、微動だにしない。
「やっぱラスボスの登場は、ザコを蹴散らしてから……か。まとめて攻められても困るから、都合はいいけどっ!」
着地したメグリは、正面の外壁越しにもそもそと移動してきた蟲へと斬りかかる。
時を同じくして、城塞内および
エルゼルも抜剣し、戦姫の
「歩兵隊ッ! ならびに義勇軍ッ! 水路の内側で迎え撃てッ! きのうの戦闘とは違い……水路の外側は、ほぼ砲の射線だッ! いでよっ……砲隊っ!」
エルゼルの命令に応じて城の背後から、水路の上を野砲が移動してくる──。
木製の樽、鉄製のドラム缶で浮力を得た、金属パーツを織り交ぜた木造のいかだ。
三連結したいかだの中央に、砲座ごと据えられた野砲。
左右のいかだには、移動用の
砲身が一体の蟲を真正面に捉えたところで、水路沿いにそれを駆けて追うディーナが声を上げた。
「停止っ! 固定っ! ですっ!」
発射時の反動でいかだが傾くのを抑えるための、四脚の固定具。
砲隊の隊員がそれを二脚ずつ水路の対岸へ置き、鉄杭をすばやく打ちこんで固定。
「
──ドンッ!
硝煙を吹きながら、砲弾が放たれる。
蟲の柔らかい腹部を貫通した砲弾は、蟲の頭脳たる針金蟲が収まっている、堅固な
その衝撃で信管が作動し、爆発。
蟲の体を焦がしながら、中心部から四散させる──。
「よしっ! 『水上列車砲・ハイランダー』初戦果ですっ! みんな続くですっ!」
これまで城塞の東西に二基ずつ配備されていた、砲座固定の野砲。
水路の手前で一旦立ち止まる蟲を狙うべく、水路に並行して射線を設定。
それなりに戦果はあったが、真横から見る蟲の線は細く、命中精度に難があった。
「このハイランダーは、蟲を正面から捕捉することで、命中精度を高めたですっ! それに加えて、ただ待つのではなく、先手を打って攻めることが可能ですっ!」
城壁を伝い下りてきた新手の蟲へ、右への移動で射線を合わせて、二撃目。
まだ壁際にいた遠距離の蟲が、城壁の粉塵に塗れながら爆散。
その戦果を見、隣の砲を担当している砲隊長・ノアが唸る──。
「ぬぅ……。あの距離で当てるとは、さすがの測距術ッ! わたしも負けるわけにはいかんなッ! 固定ッ! 仰角よしッ! 撃てーッ!」
城西側の水路にもある、二基の砲。
その一方の測距を任されているのは、異能「目」ことシー。
「浮力と砲の重量……。反動でいかだが壊れず、かつ蟲を倒せるギリギリの火薬調整……。一晩で設計するのは、さすがに疲れたでしなぁ……」
視力8.0を誇り、夜目もある程度効くというまさに異能の眼力だが、徹夜による瞼の重さにはかなわず、砲の動きについていく歩みには、疲労の影が浮かぶ。
しかし──。
「──でも実は、前々から測距を担当してみたかったんでしよ、にしししっ! ……っと、固定っ! 仰角よしっ! 撃てー……でしっ!」
城の両翼から迫る蟲を、水路上を移動しながら次々と撃破する野砲。
その雄姿と戦果が、水路内側で戦う歩兵たちを鼓舞。
一匹の通常個体と交戦中のエルゼルも、思わずご満悦の笑み──。
「水上列車砲……なんとも頼もしいッ! 性能はもちろんのこと、自ら移動して蟲を倒せるのが、士気上がるッ! 先達が築いた城壁を削ぐのが、若干心苦しいが……。壁などあとからいくらでも築けるッ! いまこの
砲撃の音と火薬の匂いに活気づけられながら、剣を振るう者が多々。
その中にあってメグリは、わずかに苦笑しながら一連の様子をチラ見──。
「単発の砲台を左右へ移動させながら、侵略者を迎撃……。これってまるで『スペースインベーダー』……。ここの文明、あっちの1900年前後くらいだから、80年ほど先取りしてるわね……」
同じく、水上列車砲の動向を、外壁の上から観察している女帝。
真上に伸びる太い触角を、左右へピクピクと揺らす──。
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