第199話 幼馴染
──射精の見物。
常軌を逸した試験の内容に、無言で口を大きく開ける受験者が数名。
ナホもそのうちの一人。
ロミアはそれに構う様子もなく、ケインの左頬を人差し指でつつきながら、試験の詳細を説明し始める。
「彼はケイン・ガルオンくん。麓の城下町の、
言いながらロミアが、ケインの左頬へと、軽くふれる程度のキス。
ケインの目元がだらしなくにやける。
対照的にナホの瞳が、怒りと嫉妬で血走った。
(ケインは戦姫團の人たちとお近づきになりたいだけで予備役兵を志願した、ただのスケベでバカッ! バカバカバカッ! そんなケインの視界にいたくて、戦姫團の入團試験受けてるわたしはもっとバカ! バカバカバカバカバカバカバカッ!)
激しいナホの怒り狂いを知る由もなく、ロミアはケインの傍らで、試験の説明を続行。
「あなたたちはそのままの姿勢で、彼の射精を見届けること。それ以降は、わたしの指示に従うこと! 以上!」
厳しい表情でピシッと言い放ったロミアが、艶めかしく顔を緩ませ、ケインの耳元へと唇を寄せる。
「……お手々とお口でたくさんかわいがってあげるから、元気いっぱいピュッピュッしてるとこ、彼女たちに見せてあげてネ♥ ふううううぅ……」
ロミアが唇を尖らせて、ケインの耳の中へ温かい息を吹きこむ。
ケインの全身が痙攣のように、ぞくぞくと激しく震えた。
「……でもケインくん? 試験内容は軍機だから、見せられないし、聞かせられもしないワ。事前の説明通り、視覚と聴覚を奪うマスクを着けさせてもらうけれど、我慢してネ?」
さるぐつわで声を出せないケインは、ぶんぶんと首を縦に振って同意。
それを受けてロミアの反対側にいる女性兵が、ケインへマスクを装着し始める。
黒い革製の、鼻以外の頭部を覆い尽くす、遮光性と防音性に秀でたマスク。
以降、ケインはこの試験が終わるまで、視覚情報も聴覚情報も得られない。
ナホは、黒いマスクで鼻以外を覆われた想い人の頭部を見て、思わず顔を背ける。
(バカ丸出しっ! そんな格好してまで性欲発散したいだなんて、ほんっとバカ! この場であなたを絞め殺して、わたしも死にたいくらいっ! あーもうっ!)
ロミアはケインの頭部がマスクでしっかり覆われたのを確認すると、そばにいる女性兵へと命じた。
「じゃあ、彼を呼んできてくれる?」
「はい」
女性兵が、ケインが縛られている柱の背後にあるドアへと駆けていく。
そのドアが手前に引かれ、茶髪の若い男性が一人、現れた。
少年然とした、大きな瞳と長い睫毛が愛らしい、半袖短パンの軽装の容貌。
全体的にか細く、女性と見紛いそうな華奢な体のライン。
しかし、肩幅や喉仏から見て、確実に男性。
ますますわけがわからないといった様相の受験者たちへ、ロミアが珍しく苦笑いを見せながら、仔細を話し出す。
「彼もまた予備役兵。射精のお手伝いという、大役を買って出てくれたわ。ケインくんには、わたしがお手伝いするとは、一言も言ってないのよ……クスッ♥ 彼が勘違いしていたとしても、だれのせいでもないわよネ……ウフフフッ♥」
悪びれる様子もなく、ロミアは受験者たちへ笑顔を振りまいた──。
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