第074話 更衣

 ──時はほんの少し遡る。


 受験者の更衣室を覗いた、リムに扮するルシャ。

 ゴーレム戦へ向け、陸軍服、そして防具の貸与が行われている。

 憧れの陸軍戦姫團の軍服に腕を通し、感動する者が何人かいる中、ルシャは着替えるかどうかを悩んでいる。


(これリムの服だし、破いたらわりぃよな。歌唱の試験も残ってるしさ。でもオレ……長ズボン苦手なんだよなぁ。年中膝頭出してっから、なんか堅っ苦しくて)


 リムから借りている暖色系のワンピース。

 そのスカートの裾を、ちょんちょんとつまみ上げてみる。


(その点で言やぁ、長ズボンよりゃスカートのが動きやすい……。ズボン借りて、膝上からスパッと切りゃベストなんだが、失格、下手すりゃ極刑モンだろうなぁ……)


 迷いながら、更衣室の中を見回すルシャ。

 ふと、室内の隅の木箱に収められた、見覚えのある衣類に目が留まる。


(おっ……だ!)


 ルシャはその衣類を一組手に取り、そばにいる女性兵へ、慣れない敬語で尋ねた。


「あっ……あの……これ! これ借りても、いいですかっ!?」


「は? それは試験中に私服を破いてしまった者へ渡す、予備の衣類だが……」


 ルシャの記憶にはなかったが、その女性兵は予備試験の場で号令をかけ、登城の際には、海軍服を模した格好のディーナを激しく叱責した、砲隊長だった。


「で、でも! 陸軍の服には……違いない……ですよねっ!?」


「それはそうだが……。海軍では廃止になったと聞くから、いまや陸軍専用だな」


「いやぁ……。こんな機能的な服を廃止するとは、海軍も見る目がないですねぇ! 、すごく気に入ってたんですよ! めちゃ動きやすくて!」


 なんとかを借りようと、ルシャは必死に敬語を操る。

 海軍嫌いの砲隊長の胸に、「海軍も見る目がない」のフレーズが刺さった。


「おお、そうか! いや、そこまで言われては断れんな。肌の露出が多いから、気をつけろよ。それは入團試験ごとに作って廃棄しているから、貸すじゃなくてやる!」


「あざっす! ついでに、軍服のベルトも借りていいっすか!?」


「いいだろういいだろう。ただしベルトは返却しろよ! 防具もしっかり着けろ!」


「了解っす! あったっした!」


 衣類上下とベルト1本を拝借し、深々と礼をしてその場を離れるルシャ。

 砲隊長は海軍を扱き下ろした受験者の存在に一瞬気を良くしたが、すぐに冷静になり、顎に手を添えていまの会話を振り返った。


「……いまの奴、どんどん口悪くなっていったな」

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