第072話 DESTROY THE CORE
テラスの眼下に二つ並ぶ、ゴーレムとの戦闘部屋。
言わば「闘技場」へ、二人の受験者が木製のドアを通り、同時に入場。
一人は陸軍服を借りた、長身で短髪の、いかにも武闘派な少女。
もう一人は私物のドレス着用の、螺旋状のサイドテールを垂らした令嬢の風体。
二人とも、ルシャとセリが寸止め稽古を行った際のヘッドギアと防具を、衣類の上に着けている。
それぞれの部屋の中央やや奥には、重鎧を身に纏った戦姫團の女性兵「ゴーレム」が、双剣を体の脇に下ろし、直立で待機している。
受験者は制限時間の10分以内に、ゴーレムの体6カ所に取りつけられた、ガラス製の半球「コア」の全破壊を目指す。
コアは金属製の板で縁取りされ、縁取り部が大きいネジ2本で鎧に固定してある。
中央のテラスで、試験官の女性兵が試験開始ホイッスルを鳴らす。
──ヴィイイイイイイイイッ!
周囲によく通る甲高い音が、眼下にも伝わった。
10分後にはもう一度、試験終了を告げるためにホイッスルが鳴る。
受験者二人はすぐ、ドアの両脇にある武器置き場へ向かった。
陸軍服の少女はテラスから見て右側へ、ドレスの少女は左側へ。
右側の武器置き場には、いずれも鋼製の、長剣、サーベル、槍が2基ずつ固定具に立てかけてあり、刃の傾倒を防ぐためのチェーンが壁を横断している。
「同じ武器が二つずつ……。双剣使い、あるいは刃こぼれ時の交換用か。ここは使い慣れた長剣でいくか……? しかしわたしは、槍術の覚えもある。動きが鈍そうなゴーレム相手には、リーチを重視か?」
左手の武器置き場には、槍斧、チェーン式のモーニングスター、鉄弓が並ぶ。
同様に2基ずつが固定具に置かれ、チェーンで傾倒を防止している。
「まあ! モーニングスターなんて、ずいぶんマニアックな武器もあるのね! 得意の弓があるのはうれしいけれど、いま嵌めてるグローブ、弓用じゃないのよねぇ。使い慣れた自分の弓でないと、照準の調整に時間取られちゃうし」
二人はほぼ同時にもう一方の武器置き場へと走り、すべての武器を確認。
陸軍服の少女は槍斧を1基、選択する。
全長約2メートルの槍の先端部に、扁平な斧が取りつけられた刺突兼斬撃の武器。
「……正直わたしは、見てくれが周りに劣る。学問試験の結果も下位。この試験は、コアの破壊以外にも、戦いぶりで加点があるという。ならばここは、戦いぶりが映える槍斧で……!」
ドレスの少女は、長剣を1基、両手で握る。
「コアの強度を確かめるまでは、オーソドックスなこれで! 学問試験では、意地悪な出題もありましたし。コアの破壊に向かない武器が、紛れている可能性も!」
二人が武器を手に、ゴーレムへ向かう。
テラスで観戦中の従者たちが、柵際に集まり、そのなりゆきに注目。
先に初撃を放ったのは、陸軍服の少女。
ゴーレムの間合いの外から腹部のコア目がけ、両手握りで勢いよく槍斧を突く。
──ガキィン!
ゴーレムが両手の剣を振り上げ、槍斧を弾いた。
槍斧全体が振動しながら、宙へとしなる。
「……やはり簡単にはいかないか。だが思ったより……いや、見た目どおり振りが遅い! 上下に揺さぶれば、攻略はそう難しくないと見た!」
一方ドレスの少女はまず、駆け足でゴーレムの背後へ回り込む。
柔らかい樹脂でできた厚底のショートブーツが、音を立てずに高速で
ゴーレムは体の軸をわずかにずらしてそれを追ったが、少女の俊足に翻弄されるのを嫌ったか、振り向きはしなかった。
「壇上で背中を見せたとき……。わざとゆっくり動いてみせているのでは……と疑いましたが、どうやら見た目通りのノロマですね!」
ドレスの少女が迷いなく間合いを詰め、水平の振りを一閃。
──ガギィン!
鈍い響きを帯びた、ガラスの断裂音。
長剣が振り切られるのと同時に、背中のコアがバラバラと破片を散らし、内部の赤い水を床へとこぼした。
「おおおぉ……」
テラスの従者から、尻すぼみの歓声が一瞬湧く。
声を上げた従者たちが、「大声禁止」を思いだし、すぐに口を閉じたのだった。
機先を制したドレスの少女が、即座にゴーレムの正面へ回り込む。
「コアの強度はそこそこ! いずれの武器でも破壊可能のようね! でもここは、勢いを断たずにこのまま攻めます!」
果敢に正面から斬りかかる、ドレスの少女。
右肩のコアを狙って振り下ろした長剣が、ゴーレムに受けられる。
──ガキィン!
その音と重なって、陸軍服の少女側から、コアの破壊音が響いた。
左膝のコアが、刺突によって粉砕。
槍斧の長所である、刺突と斬撃両対応の形状を生かしつつ、両肩両膝をランダムに狙うことで防御を手薄にさせ、最初のコア破壊に至った。
「……いける! なにしろあの重鎧だ。このまま揺さぶりを続ければ、疲れも誘発させられる! 武器の交換は……必要なし!」
少女二人の戦いぶりを、テラスで観戦中のリムが、状況を丁寧に分析していく。
「お二人ともクレバーですね……。軍服の人は、自身の得意分野を元に。ドレスの人は、ゴーレムの性能を元に……というアプローチの違いこそ見受けられますが、上々の出だしのようです」
リムが隣にいるラネットだけへ聞こえるほどの声量で話す。
ラネットは細かく観察しているリムに感心。
「はあ~……よく見てるなぁ。だったらルシャもいけそう?」
「……それはまだなんとも。軍服の人は、ゴーレムに疲労を生じさせる作戦のようですが、ゴーレムの中の人は、この試験に適性高い人が選ばれているでしょう。恐らく10分程度の攻防では、息切れしないのではないでしょうか?」
「なるほどぉ」
「それにやはり、なんらかのトラップがあるのでは……と、わたしは見ています」
「え~。考えすぎじゃない? だってあのゴーレムは、武器の持ち替えできないし、防御に徹するんだよね? インチキのしようなんて、ないと思うけど?」
「それはそうなのですが……。けさ、学問試験の順位が張り出されたじゃないですか? で、キッカさんは、前回はそのような措置はなかった……と、仰っていたんですよね?」
「……うん」
「順位の張り出しは、上位の者へは油断、下位の者へは焦りを生じさせる、團側の揺さぶりではないでしょうか? このゴーレム戦が前回どうだったのかはわかりませんが、なにか不気味なものを感じます」
そこでリムは言葉を止めた。
終始攻め続けていた陸軍服の少女が、前面5つのコア破壊を達成。
背面のコアひとつを、残すのみとなった。
少女が一旦呼吸を整えつつ、フィニッシュに向けて気勢を上げる。
「はあっ……ふはあぁ……よしっ! 体感ではまだ3~4分残ってる! コア全破壊……いけるっ!」
観戦している従者たちの脳裏に、ドレスの少女がいとも簡単に背中のコアを破壊した映像が蘇った。
リムが眼鏡の位置を正して、なりゆきを注視。
「同一の武器で、コアを五つ破壊……。どうやら、コアごとに強度が異なる……という仕掛けもなさそうですね。案外、このまますんなりと試験が進むのでは…………あっ!?」
リムが不安を拭おうとした瞬間──。
陸軍服の少女が息を整え、背後へ回りこもうと駆け出した瞬間──。
ゴーレムが、異常な挙動を見せた。
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