第056話 午砲

 ──正午まで、あと30秒。


 リムは正面の壁掛け時計を注視していた瞳を閉じ、集中力を耳へ注ぐ。

 ほどなく時計の長針と短針が重なり、正午を迎えた。

 一呼吸を置いて、城塞敷地内に午砲が鳴り響く。


 ──ドンッ!


(1発……)


 ──ドンッ!


(2発……)


 ──ドンッ!


(3発……)


 ──ドンッ!


(4発……)


 4発目の午砲のあと、余韻が長く続く。

 その余韻さえも聞き取れなくなったとき、リムは鉛筆を握った。


(…………4発! 最終問題の答は4!)


 奇問、「|+|=」を解き終え、リムは鉛筆を置き、用紙をすべて伏せた。


(午砲とともに終了する試験で、午砲が鳴った回数を問題にする……。試験開始時点では解きようがないこの問題を、自作自演のカンニング騒動によって5分延長させ、答えられるようにする……。解き終わってみれば、ヒントが散りばめられていたことにも気づけますが、ともあれ難問でした。いま思えば、團長が最初に会場後ろのドアを見させたのは、席がすべて埋まっていることを確認させるため……。後ろの席のほうが、満席に気づきやすいので有利に思えますが、前の席は前の席で、時計の針の長さに気づきやすいので、バランスは取れていますね)


 試験終了まで3分。

 手持ち無沙汰なリムは、伏せた用紙の上に置いた鉛筆と消しゴムを、机の端へ揃えて並べた。


(あと……。ラネットさんがお探しという、耳のいい少女の話……。あれもプラスに作用していた気がします。無意識のうちに、最終問題に対して「音」というアプローチを持っていました。お師匠様、ラネットさん、ルシャさん……。チームとんこつの面々と出会わなければ、ラスト3問は1問も解けなかったかもしれません)


 ──午後12時10分。


「……やめ! 筆記具を置き、問題用紙と解答用紙を裏返すこと。これ以降鉛筆を握れば、不正行為と判断。不合格とする」


 エルゼルの声が講堂に響き渡り、受験者全員が手を止める。

 予備試験通過者、その半数以上をふるい落とす一次試験。

 その1日目、学問の部が終了した。

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