第11話 グリフォン卵の黄金チャーハン

 イベント開催は一週間後に決まり着々と計画が決まっていく。


 具は港町カーベルンで採れた焼き魚に決まった。フィリスがクエストを発注し、イベント当日の朝には届く手筈になっている。

 付け合わせは地元リゼルハイムの野菜を浅漬けにする予定だ。これも当日の新鮮な野菜ものをルティが馴染の露店から買い付ける予定だ。

 そして、俺は子供達にオニギリの握り方を教えていた。


 全てが順風満帆に進んでいた矢先だった。当日を迎える


          〇


「リュウジさん。起きて下さい!」


 フィリスに起こされる。眠気も吹き飛ぶ強烈な硫黄臭。つい最近、嗅いだことのある匂いだ。記憶を呼び覚ます。それは、フィリスと卵運びの仕事をした最終地点。卵を投棄する地下施設から漂う匂いに似ていた。


「まさか!」


 俺達の部屋は食堂を中心に三つに分かれている。継ぎ接ぎだらけの増築ゆえに隙間風と共に匂いが鼻孔を刺激する。案の定、匂いの中心は食堂だった。


「フィリス、これは」


 投げつけられた卵が割れ、壁や床にはドロリとしたモノが飛び散り異臭を放っている。そして、壁に貼られた紙が目に止まる。


『働かざるモノ喰うべからず』

『偽善者』

『盗っ人の隠れ家』


「何だよ、コレは!」


 ルティが駆け込む。


「魚も届いてなかった。私の野菜もダメ」

「酷いです。酷すぎます」


「フィリス、仕方ないわね。イベントはあきらめ……」

「嫌です。私は……」


 異臭と澱んだ空気に一度、外へ出る。外壁にも卵が割れ、暴言が貼ってある。働かない子供達が難なく食にありつける事への嫉み。


「フィリス。この状況じゃ……場所もないし。それに肝心の食料がないんじゃ、ムリ……」

「でも、お米は無事です」


「お米だけでどうするの。具なしのオニギリで美味しいと言ってもらえる?子供が握ったオニギリを美味しいと言ってもらう事に意味があるの。わかるでしょ」


 血筋やスキルだけでは無い。子供という存在の重要性。何も出来ない。子供はだというイメージの払拭。求める理想は子供が大人に潰されない社会秩序の構築だ。


 どうにかならないのだろうか?割れてない卵を拾う。異臭漂うキッチンに一人戻り、フライパンで卵を焼いてみた。


「ダメだ。生臭い。何か手は無いのか……」

「アンタね。またよからぬことを考えてるでしょ」


          ○


「あの……」


 申し訳なさせうに戸口から顔を覗かせる女性。


「先日は仕事を変わって頂き有難う御座いました。なかなか子供の熱が下がらず、お渡しする機会が遅くなってしまい本当に申し訳ありません」


 そう言って銅貨を差し出す。


「母ちゃん。あの人だよ」


 母親の背から飛び出した子供は、部屋の隅で項垂れる修道女に近づいた。


「まさか、貴女がフィリスさん?」

「そうですけど……」


 見覚えのある顔。卵運びの仕事の後にリンゴを盗んだ少年だった。更に母親は懐から銅貨を差し出した。それを、フィリスが手で制した。


「私は貴女を疑いました。受け取る権利はありません」


 思慮深い顔のフィリスに少年が話しかける。


「食い物の心配してくれてんのか。なら大丈夫。俺らにはコレがあるから」

「こら、レオ。恥ずかしいからしまいなさい」

「これは、何ですか」俺は身を乗り出す。


「バリンジュの根をリンゴ酢に漬けたモノです。こうすると辛味が和らぎ……」

「これだ!まだ、根はありますか?」

「ええ、家に行けば」と女性は目を丸くする。


「ルティ、食材は何とかなるぞ」

「そんな事いったって。もう時間が」


 時刻は昼に差し掛かっていた。


「やりましょう。私たちは空腹の子供たちを相手にするんです。生半可な覚悟じゃ出来ません」


 フィリスが勢いよく立ち上がった。


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