第10話 真っ赤な林檎とホントの正義
「フィリス。どういうことなんだ?」
「前払いのようです。あれは貸し出されたギルドの荷車低賃金ですが女性向けの日雇いクエストが存在します」
「知ってたのかよ」
「いま気づきました。だから、安請け合いは……罪に加担する。優しさは時に人を駄目にしてしまいます」
「俺はそんなつもりじゃ……」
「泥棒よ!誰か捕まえてぇ」
突如、大声が響く。俺たちは声の主を探した。目線の先、屋台に並べられた木箱の中には熟れた林檎。無心に走る幼い少年はフィリスにぶつかり、そのまま修道女に腕を掴まれた。
「離せよ!」
振り解こうとする少年の懐から真っ赤な果実が落下する。項垂れる少年。
「弟が熱を出したんだ。だから……」
「だからって、盗んで良い事にはなりません」
「嬢ちゃん、その子をコッチに。憲兵団に突き出してやるわ」
店主らしき中年女性は怒りに満ちている。それを見て、フィリスは溜息を吐いた。踵を返す。銅貨三枚を店主に差し出した。
「リンゴを落とした分も入れて三つ、私が買い取ります。だから今回は無かった事に……」
「何いってんだい。盗っ人の肩を持つって……」
「貴方、お名前は?」
「の、ノア」
「じゃあ二つね。弟とノアの分です」
「ちょっと、アンタたち聞いてるの!」
店主の怒声にフィリスは動じない。
「此処、営業禁止の筈です。商業ギルドの手続もされてないように見受けますが、お互い、事を荒立てない方が賢明かと思います」
「あ、ありがとう」
「感謝するくらいなら、次はやっちゃダメですよ。食べ物に困ったら満腹食堂に来て下さい。この人が美味しい魔獣を食べさせてくれますから」
「えっ、魔獣!」
——俺をゲテモノみたいに言うなよ
少年は深々と頭を下げて帰っていく。
「悪事に加担はしないんじゃなかったのか?」
「これは救済です。それより、どうぞら、初仕事にしては質素なご褒美になってしまいましたが」
残った一つの林檎。銅貨一枚の価値ある果実。
「俺が貰っても良いのか?」
「えぇ、初仕事……ですから。私は、」
フィリスが何か話そうとしたところに興奮気味のルティが現れる。
「ねぇ、二人とも。大変なの!」
○
「ねぇ、コレみてよ」
満腹食堂の屋上には巨大な米俵が置かれていた。数にして十は超える。凄い存在感だ。送り主はベティ。流麗な字で綴られた手紙には『ビーフシチューの御礼で御座います』と書かれている。
「ねぇ、フィリス。これなら」
「そうですね」
「何だよ、二人して」
二人は顔を見合わせて笑う。
「以前リュウジには満腹食堂がギルド認定されてないって話したわよね」
「あぁ、実績が足らないんだっけ?」
「そう。だから子供達を中心とした食のイベントを開こうと思うの」
「私達は子供達と共に、安心安全で美味しい食事を提供しているって証になります」
二人が意気揚々と話す。
「リュウジ、なんか良いアイデアない?」
「そうだな、子供達も作れてイベント向きか……そしたら、やっぱりシンプルにオニギリかなぁ」
こうして、俺たちはイベントに向けて舵を切ることとなった。
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