グリフォン卵のチャーハンオニギリ

第9話 卵運びのシングルマザー

 フィリスと街を歩く。修道服の少女は自らが立ち上げたギルドについて話してくれた。未認可の福祉ギルド。子供の空腹を満たす「満腹ギルド」が仮のギルド名になる。


「仮って、どういうことだ?」

「認可が下りないのです」

「国のか?別に資金援助を頼んでるわけじゃないんだろ」

「需要と供給。谷に囲まれた少ない土地を最大限に利用したい。それが国の意向です」


 確かに理解できる。でも、福祉というのは一概に利益とは結びつかない筈だ。俺は以前から抱えていた疑問が口から漏れた。


「孤児院ってあるのか?レオやエミリだって帰る場所があるとは思えないだか……」

「孤児院は三カ所だけです。血筋と魔力持ちの子供にしか適応されません。将来に見合っただけの育成。それがリゼルハイムの方針なんです」


 垂れる2つの三つ編み、苦虫を噛み締めたようにしてフィリアは眼鏡を曇らせる。俺は口を噤む。慌てて繕う。


「だから、俺達だけでも……今頃は、ルティも豚魔獣オーク討伐クエストをしている頃だもんな」

「えぇ、私達も頑張りましょう」


           ○


 卵運び。通称「異臭屋」。グリフォンの卵を運ぶ簡単かつ安全にして安価な仕事。


 リゼルハイムでは、敢えて魔物が侵入できる経路を地下に構築している。そして、三層構造により難度ごとに区分けされ討伐される。


「それはグリフォンを飼育する為のシステムなんです」とフィリスは語る。


 とある地下施設。巨大な鉄の檻の中には、緑色と紫の強靭な翼を有する鷲の様なグリフォン。

 その巨大で筋肉質な怪鳥に焼け焦げたオーク。両断されたブレイブボア。四肢の捥がれたゴブリンが運び込まれる。


「三層構造は餌の確保のためと……」

「成長したグリフォンはディシュバーニー帝国に譲渡、および輸出されます」


 濃厚な交易関係。社会情勢を聞かされた。


「大量に生み出されるグリフォンの卵の中から生まれる雛は何万分の一です。選別され産まれる見込みのない卵は都の外れ、ビィクタ地区に運びます」

「なるほど、それがこの仕事と」


 荷台に積まれた卵を二人で押す。重さ二十キロ程で銅貨一枚と換金できる。この荷台一つなら銅貨三枚となる手筈だ。


「この荷台には六百個も卵があんのか」

「もっとあるかと思います。この仕事は足元みられがちですから、それでも承知の上で揉め事を避け……そうやって最下層の人間は息しているのが現状なんです」


——世知辛いのは異世界も同じって訳か……


 俺たちの話に一人の女性が割って入ってきた。小さな荷車には卵が詰まっている。


「あ、あの。すいません。初対面の方に不躾と承知でお願いしたいのですが。子供が急に熱を出してしまいまして、お金は結構ですので、この卵も運んでもらえないでしょうか?」


「これぐらい、お安い御用ですよ」

「リュウジさん。あまり安請け合いしない方が……」


 フィリスにしては渋々といった表情だった。


          〇


「不要な卵は地下施設に投棄する事で、その異臭により外の魔獣をおびき寄せてます」

「なるほど。これでグリフォン貿易が成り立っているのか」


「そういう事だ。ほい、ご苦労さん」と男性が前掛けから銅貨三枚を差し出した。


「あの、この重さなら四枚だと思うのですが」

「嬢ちゃん、嘘ついちゃいけないよ。そっちの荷車は前払いだろ」


「はぁ〜。やっぱり……ですか」

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