第8話 ボスボアのシチュー 赤ワイン仕立て

 ルティとフィリスは共同で住んでいるのだろうか?板張りの簡素な建物。台所の調理器具はそれなりに整っている。土で作られた釜戸に薪をくべる。フライパンに油をひき、ボスボアの肉をじっくり焼いていく。


「あの、本当に食べられますか?」とフィリスの不安そうな顔を見せる。


「大丈夫。ちゃんと処理すれば血生臭さは消えるハズだ」と俺はニカッと笑って見せた。


 果実酢を入れて弱火にかけ酸味が飛ぶまで煮詰めていく。先ほどまで漂っていた獣臭が、爽やかな果物の香りに変わっていく。


「いい匂いね。野菜はコレしかないけど……私の故郷、ライネ村特産のケチャップもあるわよ」

「サンキュー、ルティ。あとは、何といってもこれだな」


 ギルドマスターにルティが半ば奪うようにして手に入れた葡萄酒を注ぐ。中火。木べらで混ぜながらアルコール分が飛ぶまで煮てゆく。


「「え~!」」と二人の声が揃った。

「リュウジ。これじゃ子供が食べれないじゃない」

「大丈夫。アルコールは飛ばすから」

「あるこーる?飛ばす?」


 肉が隠れるまで水を入れ、塩と胡椒を加える。煮立ったらアクを取りつつ遺跡で摘んだ香草を束にして投入。更にライネ村特産のケチャップを加え煮込む。


「リュウジ、またフライパンが!」

「うん、やっぱり」

「やっぱり、て何よ」


 黄金に輝きだしたフライパンから食材を鍋に移した。


「本当はシチューは何時間も煮込まなくちゃいけないんだ。だけど、このフライパンが輝くと一瞬で食材に火が通る。チキンソテーの時もそうだったけど。不思議だ」


 バターをとろ火で溶かす。火から離し小麦粉を入れてよく混ぜ、こげ茶色になったところで鍋に加えた。


「ヨシッ!完成だ。ボスボアのシチュー 赤ワイン仕立て~子供たちの笑顔を添えて~、だ」

「はぁ、また訳の分からない名前をつける。これでマズかったら……」

「まぁあ、美味しそうな匂いがしますわ」


 怒声の中に甘い声が顔を出す。


「ベティ姉ちゃん。つまみ食いはダメだぜ」

「レオ、それはアンタでしょ」


 食卓に子供達の笑い声が響く。レオとエミリ、家で待ってた子も加えると八人もいる。この施設は孤児院なのだろうか?長机に食事が出揃った。少量のパンとミルク、そして、シチュー。芳醇な赤ワインの香りが食卓を包み込む。


「うめぇ!」「ルイ!お祈りがまだですよ。行儀が悪い」「お肉も柔らかくて美味で御座います」


「コレがボスボア?や、やるじゃない」

「なっルティ、どうにかなるって言ったろ」


 騒がしくも賑やかな食事に笑顔があふれる。


「おかわり、まだあるぞ!リジィさんもどうです?」

「遠慮しないで、今日の英雄なんだから」

「そんなわたくしは……」

「リジィ姉ちゃん、凄いんだぜ。魔獣を前に落ち着いてて、そんで、でっけぇ火の玉ズバーッて!」

「アンタは、もう少し落ち着いてに食べれないの。おかわり無しよ」

「そんな、ルティ姉ちゃん。ひどいよ」


「ご馳走様で御座いました。久しぶりに楽しい食事に御一緒でき感激で致しました。このお礼はいずれまた」


 そう言うとリジィはスッと闇の中へ消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る