第7話 ベティ・クロイツ
「お姉ちゃん、たおしたの?」
「お腹すいたよー」
「もう、危ないから待ってなさいって……」
ボスボアが倒れ、木の陰から出てくる子供達がフィリスに群がる。
「ウソでしょ!」
ルティが声を荒げた次の瞬間「プシュー!」と鼻息を荒くして魔獣が立ち上がる。血走る目。滴る血液をもろともせずに、怒りに身を任せて疾駆するボスボア。
「リフレクター」
無詠唱の光の壁は呆気なく魔獣に砕かれる。
「フィリス、逃げて!」
「私は子供達を置いて逃げません」
両手を広げ子供達を庇うフィリス。俺は何とか追いついた。決死のフライパンが勢いを食い止める。
「リュウジ!頑張って」
ルティの言葉も虚しく怒り狂うボスボアの力は計り知れない。ジリジリと押され始めた。
「もう少しの辛抱ですわ」
今までに無い甘い声。横目に映るも誰なのか窺い知れない。
「深淵なる業火の陽炎。火女神の微笑みは火竜の咆哮となりて、我が仇なす敵を塵へと変えろ」
流麗な詠唱。たぎるような熱気が肌を焼く。
「ファイアーシュート!」
声と共に放たれる火球は一瞬にして膨れ上がり、ボスボアの腹を抉るようにして衝突。火球の勢いは大きな体躯すら弾き返す。
血肉の焦げた異臭が辺りに漂う。魔獣の腹部は焼け焦げ、あばら骨が浮かび上がっていた。
やがて、ボスボアのどろりとした血だまりができ、巨体は泡を吹いて倒れた。
「今度こそ……倒したわよね?」
ルティが近づく。虚勢を張っていたフィリスはぺたりと地面に座り込んだ。
「えぇ、間違いなく」
先程の甘い声。そこには着物姿の少女が佇む。浮遊した水晶のような鉱物が、握る杖の上をクルクルと回る。
「ありがとう、助かったわ。アンタ、見ない顔ね?」
「ベティ・クロイツ。余所者ですわ。ベティとお呼びくださいまし」
二人の会話を遮るように子供が声を上げる。
「ねぇ、フィリス姉ちゃん。ご飯まだ」
「こら、レオ!お姉ちゃんは魔獣を倒してたばかりなんだから」
「でもエミリ、俺は腹が減った」
「ごめんね」と子供達に謝る修道女の足元には惨たらしい魔獣が食べ残したパン。「今日はこれを分けるしかないわね」と儚い顔のフィリスが見えた。
——ボスボアか
「アンタね。まさか
「ま、何とかなるっしょ」
俺は焼け焦げた魔獣の肉をちぎって口に運ぶ。血生臭い味に「うっげ。マジぃ」と声が漏れた。
「こんなので料理とか……だいたいね、何とかなるって言った奴が何とか……」
「まぁ、魔獣をお料理なさるのですか?」
「煮込んでシチューにしてみようかと」
ベティのときめきにルティは溜息をついた。
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