ボスボアのシチュー 赤ワイン仕立て
第5話 古都リゼルハイム
「リュウジ!早く来て。まさか、こんな場所に出るとはね……遺跡の地下がアルバンス廃坑と繋がっていたのよ」
土埃の匂いが掻き消され、ゴツゴツとした岩肌、その隙間には緑が浮かぶ。陽光が肌を刺す。
「あるばんす?」聞くに此処ベステェア大陸の南北に走るのがアルバンス渓谷。そして現在地アルバンス廃坑は渓谷の一角に採掘され昔は鉄が取れたとか。
「この渓谷を南に行けば、目的地の古都リゼルハイムよ」と少女は言う。
「りぜるはいむ?」
理解し難い言葉の羅列に思考は追いつかない。見ず知らずの土地。右も左も分からないとは正にこの事だ。ただ、まぁ悲観してても仕方がない。ここはもう、ルティに全て身を任そうと思う。
○
渓谷と言うには底が見えず、断崖絶壁を歩いた。まさに大冒険の最中。見えてきたのは谷に囲まれた自然の要塞都市。
「ここが……」
「そうよ、此処が目的地リゼルハイム。谷と共生する古き都。急いで、もうすぐ日没だから、跳ね橋が上がっちゃう」
板張りの頑丈な橋。渡り切ると複数の門兵が大きな歯車を回す。鎖で繋がれた可動橋は端から跳ね上がり、天にそそり立った。
「ほへぇ、流石は異世界ファンタジー」
「何なの、その異世界なんとかって……まっ、とりあえず。ギルドに報告よ。着いて来れば分かるわ」
夕暮れ時の活気のある商店街を歩く。その一角、大きな木造の建物が見えてきた。一階は酒場だが、がらんどうとしている。ルティは勝手知ったるといった面持ちで中央の階段を上がり、大扉を勢いよく開けた。
「うむ、わかった……しかし、だな。ほとんどのギルド職員が出払っている。夜間の緊急コールは明日の業務に響くのだが……なんだ、ルティか」
木製のデスク。ため込まれた書類が今にも崩れ落ちそうにしていた。その奥に座る四十過ぎの男。筋骨隆々、無精ひげを生やしている。眼光は鋭くも、どこか温かみがある声色は疲れ切っているようにも思えた。
「なんだとは不愛想ね」
「見ての通り、立て込んでるんだ。敗戦処理だったら明日にしてくれ。だから、コカトリス討伐なんてやめとけって……」
「何を言ってるの。はい、コカトリスの鶏冠と尻尾。これでクエスト成功のハズよ」
ルティは、あふれんばかりの書類の山に、ドカンと品を突き付けた。
「ルティ、いつの間に」
「アンタが寝ぼけてる間によ」
「そこの彼は?」
「新しい相棒。凄いのよ、コカトリスを……」
鋭い鷹のような視線が俺の方へと向けられる。
「コホン!宜しい。君達にはやって貰いたい緊急のクエストがある」
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