第4話 ルルティア・コネクト
「はい、お待ち!コカトリスの香草チキンソテー〜遺跡から出たい気持ちを添えて〜」
カリカリの皮に野草のオイルソースがかかる。細長い葉がトッピングされ、フライパンの上とはいえ、お洒落に仕上がった。
「何そのふざけたネーミングセンス」
「まぁ、いいから食ってみろって」
「不味かったら吐くからね。だいたい魔物を食べるなんて……美味しい!」
頬張ると溢れ出す肉汁を爽やかな野草の香りが掻き消す。口いっぱいに広がる濃厚な肉の旨味。食べ応えがある中にある、サッパリとした後味。
「美味しいじゃない。アンタ何者よ?」
「俺はリュウジ。料理研究家だ」
「料理けんきゅう?まっ、いいわ。アタシはルルティア・コネクト。みんなはアタシの事をルティて呼ぶわ。よろしく!」
「よろしく、ルティ」握手を交わす。
満面の笑みで頬張るルティの顔は思ってたより若い。華奢な少女が一人で魔獣討伐をしなければならない世界の情勢とは?想像がつかない。
「はぁ、美味しかった。お腹いっぱいに食べたのなんて、いつぶりかしらね?まさか魔獣を食べるとは……驚きよ」
「チキンソテーは昔から作ってるからな。美味くできて当然!」
「昔から……鳥を?アンタ、生まれは何処なのよ?」
——鶏肉って、そうな珍しいのか?
「産まれも育ちも日本の千葉市だ。千葉って言っても田舎の方でさ……」
「にほん?ちば?リュウジのファミリーネームは?」
——ファミリーネームって苗字って事だよな?
「えっと……思い、出せない」
「まさかアンタも孤児……まっ、言いたくないならいいわ。とりあえず、これからの事は朝になったら考えるとして、交換で仮眠を取りましょ」
○
パチパチと焚き火が爆ぜる。薪をくべる。スースーと可愛らしい寝息が聞こえていた。
転生したのは間違いないが、どういうことだろうか。名前しか思い出せない。レシピや調理器具の認識、言葉は理解できてはいるが、料理以外の記憶が確実に抜け落ちている。生まれ育った故郷の事も、どこか遠い過去の記憶のように思えてくる。
そして、コカトリスの猛攻に耐えたフライパン。今は鉄の様な形をしているが、料理中に光り輝いた。
——あぁ、もう全然、わからねぇ
ルティが命懸けで守ってくれなければ、転生早々にゲームオーバーだった。チートもねぇ、魔法も使えねぇ、あるのはフライパンだけ。どんだけハードモードで始まる異世界転生なんだよ。
——美味しかった、か
なんか久しぶりに聞いたような気がするな。囲む食卓。会話と笑顔の溢れる食事。初めて作ったチキンソテーも、ただ母親に「美味しい」と言って欲しくて作ったんだよな。
それにしてもルティのやつ、不用心にも程があるだろ。へっぽこ、とはいえ俺は男だぞ。肩当てを外し露わになる華奢な身体。薄手の革鎧は胸だけ、腰鎧もコレじゃミニスカJ Kじゃないか!
「何、見てんのよ。変態」
「べ、別に見てねぇーよ」
「は、はぁ〜ん。リュウジ、アンタ寝込みを襲おうとしたでしょ」
「いや、俺は考え事していただけで、やましい事とか、その……」
「はいはい、わかったから。冗談よ。アンタにそんな勇気がない事くらい、お見通し。明日は早いんだから、さっさと寝なさいよね」
こうして俺は、異世界料理研究家としての波乱の生活が幕を開けた。
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