第3話 コカトリスの香草チキンソテー
「お……、おき……て、起きなさい、このバカ!」
「痛ッてーーーッ!」
ガバリと立ち上がる。頬に鈍痛。痛みに手を伸ばすと熱感がある。
「イッテェな、もう」
「あら、ごめんなさい。アンタがいつまでも気持ちよさそうに寝ているから、ツイね」
「そんなんで叩かれてたら命がいくつあっても足りないわ」
「あら、そんか言い方しなくても、こんな美少女が起こしてあげたというのに」
(クソッ、自分の事を美少女って、普通は言わないだろ。確かに、可愛くはあるが……イカン、イカン。相手のペースに持ってかれる)
焚き火が煌々と燃えていた。言い争いは続く。ポタリと落ちる雫の音。闇の深さを窺い知る術はない。それでも、どこか……言葉を交わしていれば安心が芽生える。不思議な感覚だった。
「アンタって人はね……」
「オマエって奴はなぁ……」
壁面にはビッチリと木の根が生え、伝う水滴が弾けてはピチャリと音が反響する。床は大理石のように冷たく、隙間からは野草が生えていた。コンコンと床を叩く、硬い。
「よく助かったな」
「たぶん、コカトリスのおかげネ」
「コカトリス……。そうだ、俺達、襲われていて、アイツは何処に行った?」
彼女は冷静に俺の後ろを指差した。
「うゲェっ!」
「大丈夫よ。死んでるわ。打ちどころが悪かったみたいね」
まさかコカトリスに襲われ、あらぬ事か、それをクッションにして助かるとは……。
ぐぅー。
「腹減ったな」
「氷砂糖くらいしかないわよ」
○
満たされぬ腹の音の合唱。互いの鳴らす音色がタイミング良く重なる。最初は赤面すら見せた彼女も次第に表情は崩れ、二人してケラケラ笑い合いながら……あまりの空腹に溜息が漏れた。
(コイツ、食えるのでは?)と横たわる怪鳥を見る。
「まさか、アンタね。魔物を食べようとか考えてんじゃないわよね」
「その、まさかダ」
肉厚の怪鳥。羽を剥ぐ。
「ダガー、借りるぞ」
さっくりと繊維に沿って怪鳥の筋肉質な太腿を捌く。見えてくる薄桃色の塊を肉厚にカット。皮の部分には小さな穴をあけていく。
「もう、勝手に他人の取らないでよ」
彼女の叱責。焚き火で熱せられるフライパン。皮の面を下にして集中して肉を焼く。しばらくすると、肉汁が溢れ出した。
「ほら、見なさい!魔物の油は獣臭くて食べれたもんじゃないわ。砂糖を舐めてりゃ死にはしないわよ」
「大丈夫、任せとけ。さっきは助けてもらったからな。絶対に美味いメシ、食わしてやるよ」
滴る油。チリチリと音を立てて皮が焼けていく。跳ねる油の熱さに負けじと肉を押さえつけながらの揚げ焼き。
「塩とコショウ。もう、コレしか持ってないからね」
「あ、ありがとう。」
「べ、別に。そのかわり不味いの作ったらブン殴るからね」
「おう!任せとけ」
遅れながらだが、塩とコショウを肉に刷り込み下味を付けていく。
「アチッ!」「もう、ホントに大丈夫?」
細長い野草を敷いて鶏肉をひっくり返す。彼女の心配とは裏腹に、さっきまで獣臭かった油の匂いは、芳醇なオリーブオイルのような香りに変わっていく。カリッカリの皮からは食欲を掻き立てる肉の匂いとチリチリという音。
「さて、これが今日のとっておき」
小さな円い葉の野草を細かく刻む。青臭い香りの中にほのかに鼻腔を擽る爽やかな匂い。パラパラと脂に入れるとフライパンが黄金に輝き出した。
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