第2話 黒髪の少女
獣の咆哮がドーム状の空間に響く。その声の圧力だけでも、パラパラと風化した石壁が崩れる程だ。鋭い嘴が襲う。フライパンを構える。不恰好この上ない。
衝突。嘴をフライパンで受け止める。攻撃の余波、衝撃波は腕を伝い身体へと伝播する。その強靭な攻撃を受け流す事ができない。フライパンごと弾かれ、後方に吹き飛ばされる。
「クソッ!」
膝立。ゆっくりと立ち上がる。未だ鳴り止まぬコカトリスの金切り声に、構えるも一歩、後ずさる。再び突進を仕掛ける馬鹿デカい鶏を前に脚が竦む。
「終わりなき凝結。刹那に散り行く水霊たちの宴。凍てつく氷は
少女の周りに水滴が集まる。素肌を刺すような冷たい風。
「
ダガーから放たれる鋭利な氷の飛礫が怪鳥の皮膚を
「私はね、何とかなるって言って、何とかなった奴を見た事がないの」
吊り目がちな細い目で、辺りを探索しながら攻撃をヒラリとかわしていく。魔法で怪鳥の興味を惹きつけながら、俊敏な動きを回避する。細身の身体を流麗に動かして迫り来る嘴を小さなダガーで受け流す。
攻撃を受け流されたコカトリスは勢い余って倒れ込んだ。更に魔法で追撃する。
「スゲェー!」
「まだよ、でも退路は作ったわ。早く、アンタは先に逃げて!」
「そんな……君を置いてなんか」
「私はね。そう言う偽善的態度が大っ嫌いなの。どうせ逃げるんだったら、さっさと逃げ……!」
耳に突き刺さる鳥の咆哮。そして風圧。コカトリスは怒り、強靭な両翼を羽ばたかせ突風を作り出す。
——クソッ、立っているのがやっとだ
少女は黒髪をはためかせ「逃げろ!」と言っているようにも聞こえるが、咆哮と暴風に音は掻き消され俺の耳には届かない。腕で風を防ぎながら俺が前に出ようと決心した。その瞬間だった。彼女の華奢な身体が数センチ宙に浮き、風に煽られ勢いよく床に叩きつけられる。
「痛ッ!」
「危ない!」
コカトリスの猛攻。風が止むと同時に聞こえる脚が地を這う音。怪鳥の鋭い嘴が彼女を襲う。いつしか俺の足の震えは収まっていた。彼女を守りたい。その一心で魔獣と距離を詰める。フライパンを薙ぎ払うようにして振る。先がコカトリスの硬い嘴を捉えた。
「うぉおおら、負けてたまるかぁ!」
カチン!と響く金属音。次に衝撃波が身体を伝う。伝播する力を足で受け止めた。更に力を込めて耐える。
——ココで倒れるわけには行かない
ピシリと音がした。彼女は素早く察知した様子で「逃げて」と叫んでいたが、何が起こっているのか分からない。
二度目の啄みを俺がフライパンで受け止めると、それが合図かのように床が崩落した。
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