転生料理研究家、リュウジ。こども食堂で無双します!

ふぃふてぃ

コカトリスの香草チキンソテー

第1話 転生直後に怪鳥あらわる

 いつもと変わらぬキッチンスタジオ。自前のビデオカメラが三台。正面とやや俯瞰と手持ち用の小型カメラ。


「はい、どうも。料理研究家のリュウジです。今回はフライパン一つで出来ちゃう。爆速!チキンソテー」


 自ら拍手の演技を入れつつ「と、その前に」と告知を挟む。


「あなたのグルメ小説がメニュー化!コラボ企画が実現しました。異世界とグルメのベストマッチ。楽しみですね。なんせ僕は、いつ異世界に飛ばされてもチート出来るように料理スキルを磨いていますから、最強のフライパン一つあれば、世界を救って見せますよ!」


『本当だな』

「えぇ、本当ですよ」

『では、其方に託す事にしよう』

「うんうん……って、誰?」


 意識が遠のく。割れるほどの頭の痛み。右手でこめかみをワシャと鷲掴み。眩い世界、霞む目を見開く。


         ○


「ほら、アンタ何してんの。逃げないと食われるわよ!」


——食われる?


「コケェーーー!」


 獣の咆哮。迫り来る怪鳥。鶏のようだが大きさが桁違いに馬鹿デカい。


「もう、だらしないわね。手を貸してあげるから、早く立って!走るわよ」


 短髪黒髪の少女。差し出された右手を握る。夢にしては妙にリアリティーのある手の温もり。僕は言われるがままに彼女の後ろを駆けた。


 普段は余り運動をしないというのに、息も上がらずについて行けている。驚いた。


——コレが異世界転生の力なのか!?


 石の床を蹴り上げる。不思議な文字が刻まれた壁には蔦が縦横無尽に生えていた。


——古代の遺跡か……?


「えっ!嘘、行き止まりだわ」


 戸惑う黒髪の少女。駆け抜けた先は広い半円状、ドームのような空間。地面には石床。刻まれた文字を読み取ることの出来ない。天井は一部が瓦解していて、そこから陽光がこぼれる。見上げる空は点高く青紫。薄らと雲が流れている。


「アクアショット!」


 少女の構えるショートダガーから放たれる水弾。うねる様にして三発。怪鳥に命中するも、巨大な翼によって阻まれた。


「もう、全然きいてないじゃない」

「ここは俺に任せろ」


 颯爽と身構える。憧れていたファンタジーの世界が今ここに。身軽な体を跳躍させる。ガチャリと鳴る軽装武具の音が心地良い。


「ごジョーダン。相手は怪鳥コカトリスよ。バカを言わないで!ギルドランク三つ星の超難度指定の化け物なんだから」


 彼女の静止する声を横目に剣を構える。


「アンタ、ふざけてんの!それ、フライパンじゃない」

「えェ〜!マジだ……でも、俺は転生者。まっ、何とかなるっしょ」


 俺は改めて鉄のフライパンを力強く握った。



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