If I were...

Fuyugiku.

If I were...

 今年は本命だけにあげるんだ。


 そう宣言したのは、サナだった。

 

 僕たちは幼稚園の時から今までずっと一緒にいる。去年の冬に違う高校を受験することが決まって少し動揺したけれど、隣の家に住んでいるということは変わらないから、クラスが違う程度の変化だろうとたかを括っている。

 これまであらゆるイベントを一緒に過ごしてきた幼馴染兼友達の僕たちは、それ以来二人で最後の文化祭、夏の合宿、体育祭、クリスマスを過ごしてきた。そんな風に思っていたのは、もちろん僕だけだっただろうけれど。

 そしてあっという間に中学三年の一年が過ぎ、一年前と変わらない志望校へ志願書を出した。僕たちは、試験と二人で最後のバレンタインデーを目前に控えている。


「試験勉強もあるし、今年は友達にチョコレートあげないで本命だけにあげようと思って」

 サナの部屋でいつも通りチップスを食べながら、ダラダラと動画配信を流していた。サナはベッドの上でクッションを抱えながら、少しソワソワした様子でそう言った。

「……そう」

 なんて返せば良いか分からず、僕はベッドに寄りかかったままサナの方を向きもせず答えた。

「ユウはいつも友チョコくれるでしょ?」

 僕は毎年サナにチョコレートをあげていた。それは幼稚園の頃から、サナのお母さんと僕のお母さんも巻き込んだ交換イベントだった。

「ユウもあげるなら、例の本命だけにしたら?」

 大親友なのにユウの本命が誰だか教えてもらってないけど、とサナは続けた。不貞腐れたような言い方だったけれど、弾んだ声色はそんなことよりも自分が本命にあげるチョコレート、つまり告白することで頭がいっぱいなのだろうと想像した。


 サナは僕のことを、一度もそういう風に見てくれたことがないと知っている。でもずっと大好きだよと伝えてきた。その度にサナは、私もユウのこと大好きとぎゅっと抱きしめて応えてくれた。


「……じゃあ、そうしようかな」


 制服のスカートが捲れることも気にせず、四つん這いになって学校のカバンを引きずり中を探る。カバンの中に外の空気が残っていて、小さなピンク色の箱はひんやりとしていた。少し汗ばんだ手が包みに触れると、張り付くような感触がする。


「少し早いけど」


 帰り道に一緒に買ったチョコレート。

 お店で手に取ったら、サナは大好きな猫の形のチョコレートだと気付いて、可愛いとはしゃいでいた。周りから見たら、バレンタインに浮かれてる女の子たちに見えただろうね。


「ユウナ……?」


 どんなに好きだと伝えても、友達にしか見てくれないサナに怒りを覚えて、悔しくて、サナの顔も見られずに乱暴にチョコレートを突き出した。



「サナ、大好き」


 顔を上げると、思わず涙が溢れた。

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