(6)
知るかよ、というのが正直なところではある、でも多分、何か答えが欲しいんだよな。この人は……
「えぇっと、あれですか? 名前は名札があるから分かるとして……たまたま俺が帰るの、北崎さんがお店を出たのと一緒だったんですか? 」
「へぇ、百家さん、そういうロマンティック系が好きなんですかぁ? 」
「ち、違いますよ! どちらかと言えば幼なじみ系が……いや、そういうアレじゃないですから! あぁもう……! 」
余計な事言ってしまった。幼なじみ系って何だよ、ヲタ丸出しじゃねーかよ、変な趣味持ってるって思われたじゃねーか。もうお終いだ……
「……はははっ! 大丈夫ですよぉ、私も生物学上男ですから。分かってます、そうだなぁ、私はどちらかと言うと、年上系好きです、全てにおいて」
やっぱり何か違う方面で受け取られてるんじゃないか? 大丈夫かこれ……
「私が百家さんが隣だと知ったのは、お店に行った何日か後です。急いでたのか分からないですけど、配達の不在票が間違って入ってました。後で百家さんちに入れ直しましたけど」
「えっ⁈ 」
……不在票……あぁ、実家からの仕送りだな、きっと。大量のパウチが送られてきていたな。
「あぁ、その節はお騒がせしてすみませんでした。お詫びに今度何か持ってきます」
北崎さんは、ニヤッと口角を上げた。何だ、また何か地雷を踏んでしまったか……?
「じゃあ、こういうの、どうですか? 」
どういうのですか? 何かするんですか?
「今回の秘密の件と、不在票の件。不在票の件は、何かごちそうしてもらうとして……秘密の件ですが」
お猪口に溢れた見慣れた酒を飲み干し、ふへへ、と危ない笑みを浮かべた北崎氏は、チーズ鱈を口運びながら、話し始めた。そろそろ足が痺れてきた、早く帰りたい……
「内密にしてくださる代わりに、私と一緒に、戦いに行って下さいませんか? 」
「……は? 」
たたかい? 戦? 何処に、何の、いつ……? 何処まで本気の話をしてるんだこの人。
「社会と戦ってるって話しましたよね、私」
「あぁ、はい」
何処まで本気か知らないですが、そんな事をさっき言っていましたね、確かに。
「戦うためには資金が必要ですよね、今まで私、こういう女装できるお店にいたんです」
や、やはりそういう女装できるお店があったんですね、行ったことないですけれども……
「そこで、頑張ってたつもりなんですけどぉ……今度潰れちゃうんですよ、私無職になっちゃうんですっ、へへへ」
なるほど、それでかどうか知らないが、こんなに呑んでしまっているのか……このご時世だもんな、何処のお店もいろいろ厳しいんだな……。
注ごうとした瓶の酒が空になってしまい、ため息をついた北崎さんは、仕方ない、とでもいうように、ふらっと立ち上がった。
「だからぁ、私を百家さんのお店で雇ってくれませんか? 」
「へぇ……え? 」
この酔っ払いを、うちの従業員に? 大丈夫かこんな人をうちに入れて……
「私、スーパーとコンビニのバイトはした事あるのでお役に立てると思うんです! まぁ、いろいろ拗らせてるんで、そこは、お仕事中は隠しますから! ふんっ! 」
両手の拳を腰に当てて、自身ありげにドヤられても困るんですよ……まぁ、万年人手不足だから助かりますけど、店長がどういうかだな、あの人たまに厳しいからな……
「さっきネットで申し込みしたばかりなんです、面接誰か分からないですけど、よろしくお願い致します」
恭しく頭を下げられても、俺はまだ社員じゃないから、面接できる分際じゃないですから……
「まぁ、受けてもらう分には問題ないかとは思いますけど、採用になるかは俺の判断じゃないんで、そこはご容赦くださいね、俺まだバイトなんで」
「それは分かってます、コネで入れるほど、世の中甘くないですからね……さぁて、瓶のお酒がなくなったんで、次のお酒を呑みましょう! ふぅー! 」
まだ飲むのか! 肝臓が心配になってくるレベルだぞ……
「あ、あの! 俺はもう帰ってもよろしいですか? 俺も用事が」
「えぇー? もう帰っちゃうんですかぁ? ……仕方ないなぁ、また来てくださいよぉ? まだコスプレ姿も見せてないのにぃ」
今北崎さんにこれ以上絡むと、仮に採用された場合の仕事に支障をきたしそうなんで、コスプレは見たいけど我慢します!
「すみません、急用なので、今回は失礼してもよろしいですか? 」
……頬を膨らませ、不満そうな北崎さんだったが、時計を見て、ため息をついた。
「そうですね、こんな時間ですし……申し訳ございませんでした、こんなぐーたら酔っ払いに付き合わせちゃって! 届けて下さってありがとうございました」
千鳥足ながらも玄関先まで見送りして下さった、もうゆっくりしてください。心配です、いろいろと。
「この前のクッキーの袋の裏面に、私のアカウントとか書いてますから、良かったら返事くださいね、お待ちしてます! 」
「は、はい……時間があったら拝見します。……それでは失礼します」
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