(5)


 知っちゃったというか、知らされた、という方が正しいと思うけれども、まぁ、知ってしまいましたね。まぁ、誰にも言わないし、聞かされても言いたくもないですけど。

 「どうする、とは? 」

 「もぅ、分かってる癖に、つれないですねぇ」

 チーズ鱈を一本つまみ、つんつんと俺を突くような仕草をする北崎さんは、悩ましげな表情をしながら、何度目か本人も分からなくなっていそうだが、日本酒をお猪口半分ほど注いでいる。

 ……この人は何を期待してるんだろうか。何も俺は貴方に協力できる事はない。何の能力もないし、頭も良くないから作戦も練ることすらできない。こうやって話を聞く事ならやってあげられますけど。


 「ねぇ、忘れてませんか。貴方がここに訪ねてきたきっかけ」

 「あぁ……あれですか、ふ、褌? 」

 「そうですっ、あれぇ、私のなんですけど、じゃないんです」

 また何か知らなくていい事を自ら話してくるな、お酒でいろんなリミッターが外れたんだな。これは、酔いが覚めた時に後悔する奴だぞ。今度は何を語ってくるんだ。手に取ったチーズ鱈を食べ終え、咳払いをして、呟いた。


 「私、もう一人いるんですよ。サキっていうのはもう一人の私の名前です」

 何だ? 二重人格者か、双子か? それとも……

 「女装する時の名前なんですよ、だから、身バレしないように苗字から名前をとったんです」

 そんなに二回会っただけの隣人に話していいのか? 俺が口が固いか分からないぞ、相当信頼してるのか、違うな、ひょっとして、少しずつ爆弾を持たされているだけじゃないのか……

 新たにチーズ鱈をつまみ、こちらにまっすぐ指図するように伸ばした北崎さんは、何かを企むような不敵な笑みを浮かべながら、呟いた。

 「……だから、貴方は私の本当の秘密を見つけちゃったから、どう責任とってくれるんですか、って事です」

 時限爆弾を仕掛けられていたようだ。非常にまずい。


 「どうって……どうしたらいいんですか? あ、貴方は飛ばした覚えはないし、風が飛ばしたって仰られるかもしれないですけど、こちらも……ただ、飛んできたから返しに来ただけ、なんですよ。すみません、こう言うクレームみたいな言い方、あんまり好きじゃないんですけど……」

 控えめに抗議した俺を見て、笑いのメーターが崩壊した酔っ払いは、また、フッと含み笑いをした。

 「はははっ、やっぱりなぁ! そうかと思ったんです! 」

 ……こいつ、殴ってもいいか? いいよな、美人なだけで野郎なんだよな? 


 「……百家さん、やっぱり優しいんですね」

 「はっ? 」

 今、褒められたのか? 

 お猪口に新しい瓶の中の酒を注ぎながら、切なそうに話し始めた。どんだけ飲むんだこいつ。

 「一度見たことあったんですよ。いつもは申し訳ないんですけど、違う店舗に行ってるんです。この前は緊急で行ったんですけど、レジが混んでる時に……百家さんが対応してくれたんです」

 「あぁ、そう、でしたか? 」

 毎日沢山のお客様に会っている中で、たまたま対応していたお客様だったのか。……それはいい、いいんだが、何で隣に住んでるのがバレたんだ? 

 「ふふっ、何でだと思いますぅ? 」

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