後半戦
(1)
「はっ……! 」
ふと、目を覚ますとあたりは真っ暗だった。スマホを確認すると午前四時。変な時間に起きてしまった。
「やばい、寝てた……」
辛うじて洗い物を済ませただけよかったのかもしれない。深夜のゴミ回収だったらアウトだった。とりあえず、まだゴミ出しには時間があるので、シャワーと朝食だけでも済ませておくか。
「昨日のパン、食べてしまわなきゃな」
何故かそのまま食べていた残りの食パン二枚にマーガリンを塗り、トースターで温めておく。その間にシャワーでも浴びよう。
「……」
独り言の多さは慣れた、というより、呟きながらでないと頭が回らなくなってきた。歳なのか、そんなに早く老化が来るのか、俺はまだ二十代だぞ。
浴室から出ると、マーガリンの溶けた、クリーミーな空腹をより掻き立てるいい匂いがしている。トースターからさらに移し、麦茶を取り出す。……残りが少ない、買って帰らなきゃいけないな。
「うぉ、やっぱり美味いな……」
何故か無意識に、いつも買わないうちの店で一番高い食パンを買っていたようなので、温めない時も美味しかったが、やっぱりジュワッと溶けたマーガリンが加わると、美味しさが増している。カードで支払ったから金額を見ていなかったが、レシートの金額を見てびっくりした。美味しかったので、たまにはプチ贅沢として買ってもいいかもしれない。
「……ん? あぁ、今日は休みか」
カレンダーとスマホの日付を照らし合わせると、今日は仕事は休みの日だった。早く起きてよかった。ゲームの時間がその分取れた、と思おう。もう少し寝たかったが、今日はやらなければならない事があるのだ。
「……さぁ、出すか! 」
イベントを進めていたら、気がついたら外が明るくなってきた。午前六時四十分、もう出してもいい時間だろう。
念の為にスマホをズボンのポケットに忍ばせ、燃えるゴミの袋を持って、ベランダに向かった。
「……は? 」
やっぱり何かが落ちていた。白い布……服か?
「なんだこれは……」
ゆっくり広げてみると、スポーツタオルくらいの縦細長いもので、タオルではなく布、真っ白くて、それに両側に細長い紐が付いている……
「……はっ⁉︎ 」
もしかして、これは……ふ、褌なのか? まさか、隣から飛んで来たものではないだろうな。名前が書いてないか隅々まで確認してみると、布の端切れに小さくサキ、とカタカナが書いてあった。
「……いやぁ、ちょっとこれは……」
キタサキさんのものではないかもしれないが、飛んでくるとしたら隣しかない。隣のベランダの物干し竿に目を向けると、何枚かの大きい白いバスタオルがひらひらと気持ちよさそうに泳いでいる。
「……白で揃えるタイプなのか? 」
いや、そういう事じゃない。こ、この褌、どうしたらいいんだ。というか、なんでこんな大事な物を外に干すんだ持ち主! 持って行きづらいだろうが!
「と、とりあえず……」
褌は置いといて、まずやるべき事をしないといけない。燃えるゴミを捨てに行く、それから考えよう。
満杯のポリバケツからゴミを袋に詰め込み、急いで階段を駆け降り、ゴミ置き場に放り投げ、駆け足で部屋に戻ってきた。手を洗い、リビングに置いたままの回収した白布に向き合った。
「さて、どうするかな……」
持ち主が日常的に使っていたら困っているかもしれないし、そうでなくとも、干して飛んで来たのなら洗濯してるって事だしな……。
「迷っても仕方ない。持っていくしかないな……」
紙袋がないかキッチンを漁り、服屋でもらった紙袋に褌を畳んで入れ、持ち主かもしれない人物を訪ねる事にした。
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