(6)



 「はぁ、今日は振り回されっぱなしでした」

 「みたいだな、お疲れ。ほらよ」

 帰り道、バス停までの道を先輩——広松さんと歩いていた。最近飴を舐めながら帰路に着くのが習慣になっているらしく、帰り道によく何味かの飴をくれる。前はビスケット収集をしていた。強面だけど、お菓子が大好きなのだ。そのうち手作りを持ってくるんじゃないかとヒヤヒヤしている。

 「今日は……ミルク味のですか」

 「お前甘いの好きだろ? あとは……今は梅のやつとドロップスもあるぞ」

 大体三種類は持ち歩いてる、仕事の時は舐めていられないので、タブレットで我慢しているらしい。

 「何処かのおばちゃんみたいに常備してますよね、先輩。なんか、遭難しても凌げそうですよね」

 「ハハハ! まぁな、何かあったら大変だからな。まぁ俺は遭難しても狩りして生き延びるから大丈夫さ」

 「何処で遭難する設定ですかそれ」

 「何処でも大丈夫さ、山ならそこの獣を狩ればいいし、島なら魚を取ればいい。刀さえあればな」

 ……ゲームの知識だけで生きていけるほど、自然は甘くないと思うが、黒帯の広松さんなら何処でも生き延びそうだ。

 「じゃあ俺はこれに乗るからな、お疲れ! 」

 「お疲れ様でした! 」



 遭難はした事はないが、困難は日々待ち受けているようだ。


 いつものように、コンビニに立ち寄り、今日はせめてもの栄養として温めるだけの焼き魚とカット野菜、サラダチキンを買った。たまにはフライパンも使わないと、火の付け方を忘れかけていたからだ。

 この前久しぶりにお湯を沸かそうとしたら、火が付かなくて困っていたら、元栓を閉めたままだった。しばらく使わないとそんな事まで忘れてしまうのかと怖くなってしまった。

 「ありがとうございましたー」

 サービス業をしていると、同じ業種の人に優しくなれるのは、おそらく皆共通の認識だと思うが、特にレジが混むと助けたくなってしまうのは少ないかもしれない。俺の場合は、のんびり待つ。ゆっくりで大丈夫です、焦らないでいいですよ、と仏の顔で。




 「ただいま」

 もちろん、誰からも返事は返ってこない。返ってきたら怖い。


 身支度を済ませ、魚は少し上蓋を開いてレンジで温め、しっかり元栓を開いて、コンロの火を付ける。油を引いて、カット野菜を入れて炒め、しんなりしたらサラダチキンをちぎって入れる。あとは塩胡椒を振る、洗い物を極力出さないように考えたら大体いつもこういうメニューになる。全部レンジですれば良いのだが、フライパンを使うとちゃんと料理をしている気になれるから、なるべくフライパンは使いたい。謎の意地だ。

 魚もすぐに出来上がるし、ご飯は炊いておいたから、今日は定食みたいだ。味噌汁を買い忘れたのが少し痛い。

 「いただきます……辛っ! 」

 加減を忘れたようで、塩胡椒を入れ過ぎたらしい、辛い。焼き魚も塩焼きだから、塩分過多だ。味噌汁はなくてよかったのかもしれない。

 「まぁ、そんな日もあるよな。……辛っ」

 やっぱり料理は日頃からやるべきだ、広松さんなら何とか生き延びても、俺は何もできないから何処かで干からびてしまいそうだ。

 もう飽きたのに、また野菜炒めを作ってしまった。レパートリーが無さ過ぎて悲しい。今度大浜さんに簡単に作れるレシピを教えてもらおう……


 「ごちそうさまでした」

 フライパンと盛りつけた皿だけを洗うのは楽だ、まな板も包丁も使わなくて済むなんて、サラダチキンとカット野菜を開発した人にお礼を言いたいくらいだ。

 

 「明日は……回収の日か。早いな、もうそんな日にちが過ぎたのか」

 ほとんど毎日似たような日々を過ごしていると、日にちも曜日も分からなくなってくる。下手すると、出しそびれて次の日を待たないといけなくなる。

 「忘れないようにしないとな、今回パンパンだしな」

 休みの日にファーストフードのお持ち帰りを大量にキメたら、ゴミが嵩張って、さっき無理矢理詰め込んだら、ポリバケツがはちきれそうになっていた。

 「……何も飛んできてませんように」

 テレビをつけたら天気は晴れるが、風が強い予想、とキャスターが読み上げている。こういう日はいろいろ飛んでくる。ゴミならまだしも、服は勘弁してほしい。


 「……よし、今日は走るか」

 走る、というのはジョギングではない。ゲームのイベントをするという意味だ。報酬が推しキャラだったのに気づき、休憩中にぼーっとしてしまっていたのもある。


 充電しながらするのは良くないのは分かっているが、ひたすらイベントに徹し、気がついたら寝落ちしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る