自称通い妻なる魔王
真夜中2時過ぎ、薄ら耳に届くフクロウの声に癒しと諦めを感じる今日この頃。安寧の大学生活を手にれて半年が経つ。わずか1ページ未満を参照する為に借りた本らが目下崩れた。
「あーもう! 今日はもう休んでやる」
レポート締切まであと22時間。誰にともなく小さく叫んで、パソコンを畳む。
開き直って菓子棚をバンッ、と開いた。手に取ったクッキー缶は軽い。蓋を開ければ案の定空っぽである。狭い菓子棚を見渡せど残り僅かなマシュマロと飾り砂糖のみ。あぁどうしてくれよう。休憩には甘いもの、と意気込んで1分未満。撃沈。下がる肩をそのままにコンビニへ向かった。
入店早々、割引キャンペーンに巻き込まれていた板チョコを6枚買ってしまった。こうなれば作るものは決まってくる。切らしていた牛乳他も併せて買えばそれなりの重さだ。腕に食い込むビニール袋が痛い。
チョコを溶かして、常備された米粉と卵、買いたての牛乳、そして発掘された重曹と、入れて混ぜてひたすら。
ぽふん、どすん。
忘れようのない、聞き覚えのある怪しい音がした。まさかと思って振り返れば案の定。
「やあ、今度は何の儀式だい?」
狐面の不審者こと魔王が当たり前のように立っていた。
「やけっぱちの糖分補給ですよ」
投げやりに答えて、カップを二つ取り出す。いつだかうどんを当然のように食べようとしていたのだから今回もそうに違いない。そわそわうろうろ手元を見つめる魔王を適度に無視して作業を進める。混ぜた一式をカップに注ぎチョコのかけらと微かなマシュマロを押し込んだ。余熱が終わったオーブンに入れて一段落と、だらり椅子に座る。
「それで、何を作っている? 甘美な香りが漂っているが」
「フォンダンショコラもどきですよ」
「ほぉ、私の分もあるのだな」
確信をもってニッと笑う魔王はいささか腹立たしい。
「いや、あの2個目は作り置き分なので一人分ですよ」
なーんて、と言い切る前に魔王の後ろに文字通り雷が落ちた。固まった魔王からは狐面をしていても分かる衝撃の感情が伝わってきた。何とも言えない焦りに早口になる。
「わかっていますよね。冗談ですって」
「通い妻に対するあつかいが酷いではないか!」
ショック一転、キリリと言い放つ魔王に今度はこちらが固まる番か。
「通い妻……?」
聞き間違いと願って聞き返せど、通い妻と言い張っている。意味を知っているのかどうだか、少なくとも会うのは2回目半年ぶりだ。通い妻ですらなければ、離縁状態ともいえよう。混乱と疲れに気が遠くなってきた。力が抜けるなか遠くでチンと焼きあがる音がした。
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