Ⅴ.幕間(2)

 少年の跡に残されていたのは、白い塊だった。


 柔らかい粘土のような感じで、両の掌に乗る程度の量。

 どうやら、あらゆるものを接合する効果があるらしい。が、ただつなげるだけではなく、性質から混ざり合う、融合と言った方が近い代物だ。


 ある意味、錬金術を可能とする触媒といったところだろうか。

 錬金術師ならば賢者の石だと思って狂喜乱舞するかもしれない。

 まあ、賢者の石を知っているエクスにとっては、そこまでのものではないのだが。


(だが、便利ではあるな)


 これがあれば、千切れた手足をお手軽につなげられる。

 インターバルなら、今まで通りに日曜大工まがいの手術でいいのだが、戦闘中はそうはいかない。

 だから、これはかなり便利な『奇蹟』だった。

 竜帝の『奇蹟』は怨念の具現化だが、今回は少年の性質、というか体質が具現化している。

 そう思うと、エクスの眉間にまた深く皺が寄った。


 いっそのこと、恨みでも残ってくれた方が気が楽だったのだが。


 漏れるため息。


 竜帝は良くも悪くも『武人』だったので、そこまでは気に病まずに済んだ。

 しかし、さすがに子供相手となるとそうはいかない。


 後味が悪いことこの上ない。

 本来エクスの性に合わないのだ。


 いつからだろう、こんなことになったのは。

 元々は、ただ看取るだけだったのに。

 今では、誰も彼も希望を、最後の望みを賭けて挑んでくる。


 この『絶望』の溜まり場に、だ。


 何という皮肉だろう。

 エクスの唇から、長くため息が吐かれた。


 幾度となく突き当たった袋小路から、エクスは頭を切り替える。

 考えたところで自分がやることは変わりはしない。


 問題は、約束を果たすのはいつなのか、だ。

 それは目前に迫って――いや、おそらくはもう過ぎているのだろう。

 だから、問題は時期ではない。


 問題は、『エクスが』いつ約束を果たすのか、なのだ。



(続く)

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