ポケベルが鳴らなくて・・・

「ねぇパパ、ポケベルってなぁに?」

紗名にまた話しを遮られた。


「ポケベルは会社等から"用事がありますよ"っていう時に押される呼び鈴みたいなモノだよ。」


「そうなんだ・・・」


「携帯電話やスマホが無い時代だから貴重な連絡手段だったんだ。」


「スマホが無い時代は不便だったんだね。」

紗名はどこか遠い目をして呟いた。


「不便と言われればそうかもしれないけれど・・・ その時代はソレを上手に活用していたよ。当時のドラマで“ポケベルが鳴らなくて”っていうのがあって・・・ いや、そんな事より続きいくよ。」




俺は営業先から慌てて戻って行った。

会社のそばの定食屋はお昼の時間帯とあって混み始めている。

店の中を覗くと佐々木遙は既に席に着いていた。

彼女は俺が入口から顔を出したのを見かけると嬉しそうに手を振った。


「佐藤さんコッチ、こっちですよ。来ないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしましたよ。このお店のお勧めをもう注文しておきました。」


俺は急かされて彼女の向いの席に座る。

間もなくテーブルにはカツ丼が運ばれて来た。


「佐藤さん、昨日何かいい事あったでしょう?白状してください!」


「何だよ、まるで取り調べみたいじゃないか?目の前にはご丁寧にカツ丼まで有るし・・・ 美味しそうなカツ丼なんだから温かいうちに頂こうよ。」


彼女は話しをはぐらかされて「チェッ」と舌打ちをする。


俺の後ろの方でテレビが点いているのかWinkの「咲き誇れ愛しさよ~」という歌声が聞こえた。

彼女はそのCMを見て「分かりました。もうこれ以上は聴きませんよ! 代わりにこの化粧水を使ってみたいから買ってくださいね。」ってねだってきた。


俺はむせて掻っ込んだカツ丼を出しそうになってしまい・・・


「後で昨日の事を話すから勘弁してくれよ。」


俺って女運悪いんだろうか?

なんでこんな図々しい女ばかり寄ってくるんだ?

俺はカツ丼を頰張る彼女の顔をジッと見つめた。

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