二日酔いの休日

カーテン越しに木洩れ日の様な光りが俺を照らし朝に成った事を知らせてくれる。

窓の向こう側では小鳥がチュンチュンと朝の営みに勤しんでる。


小説やドラマではベッドで裸のカップルが「おはよう♪よく眠れた?」って目を覚ますのだろうがリアルでは一人、眠いまなこをこすってベットから起き上がった。


自分の部屋を出ると昨日の事を思い出した。

「はぁ~ 昨日、女の子を泊めたんだった。」

リビングに降りて行くとまだ彼女は寝息をたてている。

俺はリビングの灯りをつけて揺り起こす。

「おはよー 朝だよ。」


彼女は瞼を開けると何があったか分からずに困惑している様に見えた。

「えッ? 私どうしてココに・・・? ウッ頭痛〜い。あなたが私を介抱してくれたの? 迷惑かけてごめんなさい。」


「二日酔い大丈夫かな? 昨晩の事覚えてる? 家の玄関前でうずくまっていたんだけど・・・ 流石に今日は病院の出勤は無いよね?」


「病院? 私が病院の看護師しているのをなんで知ってるの?」


「昨日、自分で言ってたのに覚えてないの?」


「エッ?私、何言ったの? まったく覚えてなくて・・・」

ゆっくり起き上がった彼女は昨日と違ってすっかりしおらしく成ってしまって呆気にとられたが俺は昨晩の事をかいつまんで話した。


彼女は申し訳なさそうに「迷惑かけてしまってごめんなさい。ベット貸していただいてありがとうございます。」って恥ずかしそうに微笑んだ。


彼女が寝ていたベットをソファーに戻すと・・・

「そう言えば自己紹介もまだしてないですね。俺は佐藤正人さとうまさとです。あなたは?」


「私は横田百合よこたゆりです。」


俺は疑問に思った事をそのまま聞いてみる。

「横田さん、昨日はなんで家の玄関にいたんですか?」


彼女は少しだけ考える素振りをした。

「私の歓迎会だったんです。社会人になって初めての飲み会で、看護師仲間で呑んでいたんですが・・・ みんなすごい量呑んでて・・・ 私も大丈夫だと思ったんですが全然駄目でした。」


「看護師の人って底無しの人が多いみたいですよ。俺の知人は酒飲みには自信あったらしいですが、あっさりつぶされた、と言ってました。」


横田さんもウンウンと頷く仕草を見せたが、頭痛の為か頭を手で押さえた。

一目で二日酔いなのが判った。


「お腹すいてないですか? お粥とか作りますけど食べますか?」


「ありがとうございます、いただきます。」

彼女は申し訳なさそうにペコリとした。


俺はキッチンに行くと冷蔵庫に残ったご飯を鍋に移し昆布出汁を少し加え火にかけた。

適当に火が通ったら溶き卵を加える。


汁物は・・・

インスタントのしじみ汁が有った。

俺はできるだけ待たせないようにパパッと支度を済ませ横田さんの前に置いた。


「すいません、いただきます。」

彼女はつぶやくような声で言った。


どうせ二日酔いなんだから彼女は大して食べられないだろうと思ったら・・・

お腹が空いてたのか普通に俺の分も完食した。

・・・俺、朝は何食べよう?

シリアルが残ってたから牛乳を入れてさっさと胃袋に流し込んだ。


横田さんの顔色はあまり良いとは言えない。

「今日は休みだから車で送ってていくよ。」


「えッ? そんな・・・ご迷惑では?」


「どうせ買い物に出掛けるつもりだったし、横田さんは二日酔いで動くの辛そうだから・・・」


「何から何まで申し訳ありません。お願いします。」

彼女は断るかと思ったらあっさり受け入れた。


これは横田さんとのドライブデートか?


親父のお古のファミリアに横田さんを乗せ走り出した。

自宅の場所を聞いたら隣の県だった。

「意外と遠いトコロから通ってるんですね?」


「通勤に時間がかかるんですが・・・ 奨学金もらって大学行ってたので、返済を早く済ませようと自宅から通勤してるんですよ。」


「・・・奨学金の返済ですか?頑張ってるんですね・・・」

俺が独り言をつぶやくみたいに言ったのでしばらく沈黙が続いた。

何か気分転換の音楽でもと思い、俺はCDのスイッチを入れた。

車には浜田省吾、悲しみは雪のようにがながれた。


「これってドラマ”愛という名のもとに”の主題歌ですよね?私、あのドラマ好きだったんですよ。」


「浜田省吾は”愛という名のもとに”って曲も創ってるんだよね。カラオケでドラマの題名と同じだと思って選曲して、"あれ?"って人が居るよね?」


「あっ!それ私も見たことあります。」

横田さんのクスッと笑った横顔は可愛かった。


「あの〜?佐藤さんはあの一軒家で一人暮らしなんですか?」


「元々はジイちゃん、ばあちゃんが住んでいた家なんだ。二人が亡くなって俺が就職したタイミングで住み始めたんだ。」


「あんな広い家に一人暮らしなんですか? いいな〜羨ましい。」


「羨ましいですか?古い家ですよ!」

普段住んでる古い家をそんな風に言われた事に少し驚いた。


俺は調子にのって「それじゃ〜 住んでみますか?」なんて言ってみた。

彼女は「何言ってるんですか?」って言うと思っていたら・・・


「エッ、いいんですか?考えておきます。」

なんてかえされて俺はドキドキしてしまった。



こんな会話をしながらなんとか横田さんの家に辿り着く。

「身体大丈夫かな? 今日はゆっくり休んでね。」

女の子にこんな言葉をかけたのは初めてかもしれない。


「昨日からイロイロありがとね。このお礼は必ずするから・・・」

彼女の顔が俺に近づいて来たかと思ったらいきなり俺にキスをした。

「何? 俺のファーストキスを・・・」


「私だってファーストキスですよ!」


「ファーストキスはもっと大好きな人とするもんだと・・・ それに"酒臭っ" 俺のファーストキスが酒臭い思い出になっちゃったじゃないか!」


「うるさいな! でもホントにありがとう。」

彼女はさっさと家に入って行った。

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