第36話 オディロン2
扉を開けるとそこには宰相以下の大臣達、名だたる貴族達が集まっていた。そして皆が集まった所で陛下が口を開く。
「皆の者、急な呼び掛けに集まってくれてありがとう。今回、皆を呼んだのは我が息子、オディロンの事だ」
陛下の言葉にその場にいる者達は口を閉ざし、一同注目をしている。
「その前に。みな、マツイヒカリを知っていると思うが、日々の振る舞いは王妃の器にあらず。そしてこの度、ヒカリは赤毛の子を産んだ。不貞を行ったのだ。この事により生涯幽閉を行う事を決めた」
陛下の言葉に貴族達はざわめく。
「陛下!ですが、マツイヒカリとオディロンは女神が絆と決めたのでは?」
「それなのだが、どうやらヒカリの相手はオディロンでなくても良いようだ。赤毛の子がそれを証明しておる」
「ですが、幸せに暮らすと女神との約束ではないのですか?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「それで、だ。幽閉をするにあたり、『常闇の光』をマツイヒカリに使用する事にした」
常闇の光とは国が厳しく管理している薬物の1つ。使用すると幻覚を伴い、快楽を味わうという魔薬の一種だ。その言葉にその場にいた者達の困惑が広がった。
「いくらなんでも不貞をしただけであの魔薬を使い幽閉とは罪が重過ぎないですか?」
「マツイヒカリがした事は不貞だけでは無い。勇者紋を持った者を知らないとは言わせないぞ。アレット・グラーヴ公爵令嬢を皆知っているな。
マツイヒカリはオディロンとの絆を女神によって切らせ、無理矢理結婚した。聖女として役立たずだったマツイヒカリに比べ、アレット公爵令嬢こそ本当の魔王討伐の立役者だ。そして公爵令嬢でオディロンの妻となる娘だった。全てを奪い取ったのだ。
罪も無い公爵令嬢を平民にし、王都から追い出した。ヒカリ本人も自分が王妃になると前々から公言していた。王家としては簒奪と捉えている。幽閉には充分な理由だ」
大臣含め、王城へ上がる貴族達はヒカリの素行を知っているせいかそれ以上の事は口にしなかった。アレットの父、グラーヴ公爵もようやくかと顔にだしている。
「皆の者、女神を巻き込んだ王家の騒動の引き金となったオディロンを降格し、代わりに弟のリシャールを王太子とする」
陛下は改めて宣言するように語った。多くの貴族達は様々な思惑があったようだが、事前に行方不明になっている勇者を私が探し出そうとしている事を経緯を含め知っている。
宰相を含めた貴族達は臣下の礼をとり、反対なく受け入れられたようだ。
… ようやくだ。
ようやくアレットに会いに行く事が出来る。
会議を終えると急いで自室に戻り、持って行く物の確認をする。
「オディロン様、本当に魔の森へ向かうのですか?」
私の従者は心配そうに尋ねた。
「あぁ。きっと彼女はそこに居る」
「魔の森の手前まで馬車を送らせます。噂では魔王討伐以降急速に強い魔物が姿を消しているらしいですが、気をつけて下さい」
私は王城の裏門からそっと出て、用意されていた馬車に乗り込む。アレットに会えるかどうかも分からない。
だが、何となく呼ばれている気がするんだ。
きっと彼女は寂しい思いをしている。
早く見つけ出してあげないと。
馬車に揺られる事1週間。私は大きなリュックを背負い、従者に見送られながら魔の森へと入っていく。真っ直ぐに進んでいく。ふと気づいた。私の通る道は雑草は生い茂っているが、大木が1本も無い。昔は道だったのか?私はそのまま進んでいく。
途中で魔物と遭遇したが訓練の甲斐もあって倒す事が出来た。アレットは毎日こんな戦いをしているのだろうか。
私が森に入って約4日。
野宿する時はロイクの開発した結界杭を使って過ごした。魔物を狩り、肉を焼いて食べる。今までとは全く違った生活だ。
そうして導かれるように歩いて進む事5日目の朝、遠くに1軒の小屋が見える。私は久々に人の生活を感じる。
あぁ、きっとここだ。
気づけば駆け出していた。
ー コンコン ー
扉をノックすると、懐かしい声が聞こえてくる。
あぁ、やっと見つけた。
私の最愛の人。
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