第29話

「エスト、今回の素材の代金だ。お前さんもそろそろこの街に定住したらどうだ?この街だって捨てたもんじゃ無いだろ?」


「ギルドマスター、私は定住する気は無いよ」


「そうか。残念だな」


そろそろこの街からも去るべきね。


 私は買い物をしてクロムの待つ宿屋に戻る。王都を出て既に3年が過ぎようとしている。私は行く当てを決めずに転々としながら村や街を旅している。


勇者パーティーだった頃は村を襲っていた村に被害を起こす強い魔物を退治して周っていたおかげか、今は脅威も無くなり人々は復興を目指すように街や村は活気を取り戻しつつあるようだ。と言っても、まだ強い魔物が出る時もあるので私は見つけ次第魔物を狩り、村や街のギルドに素材を卸している。


 不思議な事にクロムは私が魔物を退治する毎に少しずつ強くなっている様子。あの時光ったのはやはり従魔契約をしたのかもしれない。


魔物は基本的に強いものに従う事があるため人間にはあまり従わない。けれど魔物が認めた人間と従魔契約する事で人間の成長を魔物も享受する事が出来る。つまり人間が強くなればなるほど従魔も強くなっていく。


この契約は殆ど使われる事が無いためあまり知られていない。一般の人間は魔物より弱いためだと思われる。そしてクロムは小型の魔物だったのにも関わらず、私と共に旅をする事で成長している。


大きさはそのままだが、鱗は青みがかった虹色に変化し角が生えた。鱗の強度もドラゴンに匹敵するのではなかろうか。どうやら元のモノラと種別さえ変わったように思えてしまうのだけれど、私にはよくわからない。


ロイクに連絡を入れておくべきかしら。


たまに父とは取っている。父の話ではやはり貴族達が私を手に入れようと画策していたらしい。あの場で逃げて正解だったようだ。


母も兄も元気にしていて兄はようやく結婚する気になったとか。




 私は少し寂しく思いながらもクロムの引く幌馬車に乗って街を出る。そろそろ1ヶ所に身を置いても良いかもしれないと考えているけれど貴族に見つかる訳にはいかない。


…どうしたものか。


『ロイク、久しぶり。其方はどうですか?私は相変わらず放浪しています。少し気になる事があったので連絡しました。私の連れている魔物のモノラが進化しているような気がするのですが、生憎と魔物の知識はあまり無いので連絡しました。何か情報がありますか?』


魔法連絡を飛ばし、のんびりクロムの引く車に揺られながらウトウトしていると返信が返ってきた。


『アレットお久しぶりです。国は今のところなんら変わりはありませんよ。居ても退屈なだけです。モノラの進化は無いはずですが気になりますね。私もアレットが紹介してくれた農場へあれから足を運んだのですが、私も魔獣に好かれたようで3頭ほど飼育しています。特に変化は見られないようですが。気になるので1度其方へ飛びます』


返信を読み終わると同時に私の隣がパァと光り、ロイクがストンと転移してきた。


「ロイク!まさか転移してくるなんて。びっくりよ」


「アレット、お久しぶりです。貴方は相変わらずのようで。で、早速見せて下さい」


相変わらずロイクは自分の興味のある事柄には触手が伸びるのが早い。私はクロムを止めて魔獣車から降りるとロイクに説明する。


「この子可愛いでしょう?前は角なんて無かったの。それにこの鱗。元々硬い鱗だったけれど、もっとこう、ドラゴンのような鱗になった感じなのよね」


「確かに興味深いですね。確かに進化したような形です。私の飼っている魔物達と何が違うのか知りたくなりますね」


「その事なんだけど、もしかして名付けをしていないとか?この子の名前はクロム。名付けた後に光ったのよね」


「確かに私は名前を付けていないですね。魔獣なので種別で呼んでいました」


「多分だけれど、名前を付けた時に従魔契約をした気がするの。ロイクも従魔契約をしてみたらどうかしら?賢者も魔物を倒したら成長するのかしら?」


「職業が賢者であれば魔力や知識を中心に増えていくような気がしますね。スキルもその内出てきそうですが」


「なら小さな従魔も欲しいわよね。知能が上がれば色々と従魔達も賢くなるんでしょう?」


「ええ。そうですね。まぁ、従魔契約の話やモノラの進化も見れた事だし、帰ります。聞きたい事はありませんか?」


「特には無いわ。あぁ、でも。そろそろ何処かに定住しようと思っているわ。誰も居ない所に」


「分かりました。定住したら教えて下さい。では」


そう言うとさっと光と共に消えていってしまった。ロイクらしい。

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