第20話
翌日、私は腰に付けるタイプの鞄を用意し王城へと出掛ける。兄は仕事のため一緒に馬車で送って貰う。
「アレット、何かあったらすぐに私を呼ぶんだ。分かったかい?」
「お兄様、大丈夫ですわ。では行って参ります」
兄に軽くハグをして私は城の中へ入らず隣の魔法使い棟へと向かった。やはり私は有名人らしく受付の魔法使いはすぐにロイクの部屋まで案内してくれた。
「久しぶり、ロイク。変わりなかったかしら?」
「ええ。アレットも変わりないようで良かったです」
私とロイクは変わりない様子にお互いホッとしている。
「アレット、マジックバッグが必要という事はやはり貴族は抜けるのですね」
「ええ、そうなの。ロイク、貴方も一緒に旅に出る?」
「研究に没頭していたいので遠慮しておきますよ。面倒な貴族達の事は任せて貰って大丈夫です。まぁ、幸いにも私は絆の相手にはまだ出会っていないですからね。オディロン殿下とはあれから会ったのですか?」
「いいえ?会っていないわ。殿下がどうかしたのかしら?」
「私達が帰ってから公式の場に一度も出ていないようです。余程あの馬鹿女と会いたくないらしく逃げ回っているのだとか。結婚式が半月後に決まったというのに」
「仕方がないわ。無理矢理変えられたのですもの。でも、そのうちなんとかなると思いますわ」
私は微笑みながら用意したバッグをロイクに渡し、私はソファに座る。
本来なら私とオディロン殿下が結婚するために用意されていた物をそのまま使用する形でオディロン殿下とヒカリが結婚する事が急遽決まったらしい。
ヒカリはこの事実を知らないのかも知れないけれど。
「これに掛けて頂戴。賢者になったのだからスペースは広がったでしょう?」
ロイクはやれやれと言わんばかりにバッグに手を掛け、魔法を唱えるとバッグは淡く光を放つ。
「ふぅ、これでいいですよ。これから一人旅するには良い餞別でしょう?出発は半月後ですね」
「ええ。そうするつもりよ。ロイク、ありがとう。そうそう、昨日ね、ロバを買いに牧場に行ったのだけど、私はロバにも馬にも嫌われてしまってね。魔獣を旅のお供にする事にしたわ」
ロイクがとても驚いている様子。動きを止めていた。魔獣に興味を引かれたのかしら。
「… 魔獣?」
「ええ。モノラという魔獣よ。可愛い子なの。ロイクも厩舎に行って欲しいわ。他の子達も飼って欲しそうにしていたのよ?あの子達に紹介するわって言ってしまったし。会ってきて欲しいわ」
「それは大変興味深いですね。貴族の馬鹿女達の相手より魔獣達を相手にしている方が楽しそうですし。後で行ってみますよ。貴重な情報をありがとうございます。変わった事があればいつでも連絡を下さい」
「分かったわ。ロイクありがとう。じゃぁ行くわ」
「ええ。ではまた会う日まで」
そうしてロイクと別れて私は邸へと戻る。
…そうね、いつまでも甘えていられないわ。
オディロン様とヒカリの結婚式は半月後。私はいつまでも家族や仲間に甘えていたい思いに駆られる。けれど、これ以上は迷惑となる。ようやく、有耶無耶にしていた別れの決心を決める。幸せになりたかった。思い出す度に涙が溢れそうになる。
決心が鈍らないうちに父の執務室へ向かった。
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