第19話

 私は兄と買い物を終えてからの数日は母とお茶をしたり、料理長から外でも食べられるようなスープや食べ物の作り方を習っている。



そして今日は厩舎担当のシャダルと一緒に王都の外れにある牧場へとロバの買い付けにやってきた。


「お嬢様、本当にロバでいいんですか?馬を選ぶ方が良いと思いますが」


「シャダル、良いの。急ぐ旅をするわけじゃないもの。のんびりと各地を放浪するにはロバで充分よ。可愛い子が見つかるといいわ」




 牧場に着くと目に入る馬の数。私は少し興奮していると牧場の管理者が声を掛けてきた。


「ようこそおいでくださいました。本日はどの馬をご購入ですかな?」


「今日は馬ではなくロバを探しているの。良いロバはいないかしら?」


「ロバですか。何頭かおりますよ。飼い主と相性が合えば大人しく良く働いてくれますよ。相性が合うと良いのですが」


「相性が合わなければどうなのかしら?」


「合わなければ唾を吐いて仕事を放棄します。まぁ、仕方がないですね。その場合はロバは諦めて貰うしか有りません」


「分かったわ。ロバに合わせて頂戴」


 私はシャダルとロバ舎へと向かった。ロバ舎には10頭程のロバがいた。けれど、みんな明後日の方向を見てこちらを向いてくれない。


「おいで」


と呼んでみるが知らん顔。管理者が1頭ずつ私の前に連れてくるけれど、みんな怯えて後ろを向いていたり、歯を剥いたり、足を鳴らして威嚇してきた。


「うぅ。私はロバに嫌われているのね」


これには管理者もシャダルも苦笑い。


「馬もみてみましょう」


私は気を取り直し、馬の厩舎へと向かったけれど、やはりここでも私は歓迎されなかったわ。


「シャダルっ。私はなんでこんなに嫌われているのかしらっ」


「お嬢様は魔力が漏れるほど強いからではないでしょうか。管理人さん、強いお嬢様に合うような生き物は居ますか?」


少し考えてから言いにくそうに口を開く。


「…馬では無いんですが、居なくは無いですよ。ですが、気性が荒くてまだまだ商品として売り出すには早い状態なんですが。…見てみますか?」


馬では無い?気性が荒い?


 私は不安になりながらも離れた一つの厩舎に向かった。


そしてそこにいたのは6つ足で鱗に覆われた生き物やドードーのような大型の鳥類などの何匹かの生き物達がいた。



「… これは麒麟?」


「いえ、麒麟では私達が死んでしまいますよ。これはモノラという魔獣です。商人達が行商を行う時に魔物に出くわした場合、馬が逃げたり、死んでしまったりする事があるのです。


頑丈な生き物が欲しいと要望があって実験的に魔獣の飼育を始めたんです。けれど気性が荒く中々合う人がおりませんでね。苦労しておるんですよ」


「そうでしょうね。魔獣は強さが基準と聞きますものね」


「お嬢様、お嬢様にピッタリではありませんか」


シャダルは嬉しそうに話すけれど、それはそれで少し寂しい気持ちになる。確かに私が厩舎に入った途端にそれまであった唸り声はぴたりと止まった。


「どうぞ1頭ずつご覧下さい」


私はそう促されて1頭ずつしっかりと見ていく。どの魔獣も私には歯向かう意志は無いらしい。頭を擦り寄せてくるのも居る。


「これは驚きですね。お嬢様はこれほどまでに魔獣に好かれるとは」


「気に入った魔獣は居ましたかな?」


懐かれるとどの子も可愛く見えてしまう。


「この中で自分の身を守る事に長けている子は誰かしら?」


「… そうですね。このモノラは小型種で火こそ吐きませんが全身硬い鱗に覆われているので防御力は相当高いと思いますよ。知能も高いですし、魔獣ですので他の馬達に比べて馬力も格段に高いです」


管理者がそう言うとモノラはブルルと鼻を鳴らしている。小型種というだけあってポニー位の大きさ程度。キュルンとしたつぶらな目にやられてしまう。


「この子を頂くわ」


私がそう言うと、他の魔獣達は不満なようで嘶くのような声が聞こえてくる。


「… 分かったわ。私はこの子を貰い受けるけれど、他の子達は私の知り合いに掛け合ってみるわ。私と同じ位強いのよ?」


私がそう話すと魔獣達は嘶いた。私はそのままモノラの綱を取りながら家へと歩いて帰る事にした。


「お嬢様、このモノラに乗って帰ってはどうですか?」


シャダルの提案にモノラは立ち止まって背中に乗せてくれるようだ。私がモノラに跨り、シャダルが綱を引く。


 王都をこれで歩くのは気恥ずかしいけれど、モノラは厩舎の外に出れた事が嬉しいのか鼻をよくブルルと鳴らしている。そしてシャダルは歩きながら話しかけてきた。


「お嬢様、このモノラに名前を付けてあげないといけないですよ。何にします?」


「そうね…クロムっていうのはどうかしら?」


モノラは頭を縦に振ってブルルと鼻を鳴らしている。どうやら気に入ってくれたようだ。そしてクロムが一瞬光ったような気がした。気のせいかしら?


「良かったわ。クロム、これからよろしくね。そうだった、ロイクにマジックバッグを作ってもらわないとね」


クロムに乗ったままロイクにマジックバッグを作って欲しいと魔法でメッセージを送ると、すぐに『明日にでも鞄を持って魔法使い棟に来て下さい』と返信されてきた。


明日は王城へと出向かなくては。気が重いがこればかりは仕方がない。陛下達に会うわけでは無いのだからと自分に言い聞かせる。



 そうして邸へと戻ってクロムを厩舎に入れる。他の馬とは少し離れたスペースにクロムを休ませると素直に入ってくれたようだ。あとはシャダルに任せて私は部屋に戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る