第18話 クリストフ2
翌日、私は執務室へ入り、詳しい話を聞こうとする。
「父上、城で何かあったのですか?」
「あぁ、あのヒカリと言う異世界の少女がやらかした。お前も見ただろう?勇者パーティーを出迎えた時にオディロン殿下に抱きついたのを」
「ええ。あの女、アレットを差し置いて殿下に抱きついていましたね」
「そうだ。そして神殿で女神に願ったそうだ。自分と運命の赤い糸で結ばれた王子様と結婚して幸せに暮らすと。女神は願いを叶え、オディロン殿下とアレットの女神の絆を断ち切り、ヒカリと絆を結び直したのだ」
… どういう事だ。
あまりの事に上手く考えが纏まらない。
「そ、それで絆を切られたアレットは…どうなるのです?」
「マツイヒカリは異世界人でこの世界の人間では無いため、この世界の者と絆がある者は居ないらしい」
「では、アレットはオディロン殿下との絆を失った後、代わりの相手は現れないのですね」
あるのは絆を失った喪失感。
なんて恐ろしいのだろう。
絆を持つ伴侶が何らかの原因で死亡した場合、あまりの喪失感に残った伴侶は追いかけるように短命になると聞く。アレットは伴侶の絆を無くした分、死に急ぐ可能性もあるのかもしれないと考えが浮かぶ。
考えただけでも恐ろしい。父も母も苦悶の表情のままだ。
「あぁ。そういう事になる」
父も同じ考えに至っているのだろう。重い沈黙。3人共にため息を吐く時間だけが過ぎていく。
そうして家族でアレットの今後の事を心配していると、アレットは執務室へと入ってきた。アレットは貴族籍を抜けたいと言う。
私はたまらずアレットに言う。
「アレット。辛かっただろう。このままでいいじゃないか。ゆっくり領地で休んでおいで。後は私達が何とかするから」
これは今、私が言うことの出来る最大限だ。何人からも妹を守りたい。その思いに偽りはない。
けれど、流石は王太子妃となるはずだった妹。これから我が家に降りかかる火の粉を予想していたのだろう。絆を失い、貴族として他の者達に身を許さなくてはならない妹。アレットの中でこれからの生涯を1人で過ごすという現実、殿下以外に身を許したく無い想い、貴族として生きるための責務という様々な想いが複雑に絡み合うのだろう。
考え抜いた末に貴族籍を抜けるという事なのだと理解して何も言えなくなる。こんなに辛い思いをしていても誰に当たることもしない。父も貴族籍を抜ける事を許した。
あぁ、大切なアレットが旅立ってしまう。
私に出来る事は1日でも長く家族としてあり続ける事だ。
1日でも長く引き留めて居たい。
こんな形で家族を奪われてくのは辛すぎる。
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