第17話 クリストフ1

 ようやく、ようやく魔王討伐の知らせが届いた。妹のアレットは剣なんて持ったことの無い生粋の姫だったのに。よくここまで頑張り抜いた。


 アレットはオディロン殿下と仲睦まじく、誰もが羨む王太子と王太子妃となるはずだったんだ。結婚式を半年後に控えていたのに女神はアレットを勇者に選んだ。いつも血を吐く程の鍛錬を行っていたのだろう。


 国からの報告ではずっと最後の5人目が見つからず、4人で魔王を倒す事になると言われていた。


過去には5人で挑み、全滅したパーティーも少なくない。それを4人で挑むなんて正気の沙汰じゃない。



 アレットが旅に出てから2年後、ようやく聖女が現れた。マツイヒカリと言っていた。アレットの2つ下の17歳。異世界の娘だった。私は王城で文官として働いているためヒカリに何度か会ったが、あの娘はなんだ?聖女紋に選ばれたのにも関わらず悲壮感が全くない。それどころか今にも踊り出しそうなウキウキとした感じというか、魔王がすぐに倒せると思っている様子。


彼女は『オディロンに会いたい、デートがしたい』と侍女達に要望を出しているそうだ。殿下はヒカリの要望を受け入れる様子はなくホッとしている。


これだけアレットが頑張っているのにヒカリときたら怠惰だ。


怠惰すぎる。


どうやら騎士達が頼まなければ面倒がって自ら動こうとしないようだ。異世界から渡ってきたせいか聖女紋の影響かは分からないが一度に治す人数や効果は目を見張るものがある。そのせいもあって努力をする様子が無い。


聖女紋が無くなった時、ヒカリはどうするのだろうか。



 伝承として伝わっているのは女神は人々に紋を与え、魔王を討伐した時に紋の返却がなされる。女神から褒賞として1つだけ願いが叶うという。そして紋章の返還がされると女神の紋と加護は無くなる。


だが紋が現れてから無くなるまでの間で努力して得たスキルや増えた魔力等は残る。反対に言えば努力しなければまた一般人に戻るという事だ。


努力しないヒカリは将来を望まれる事は無いだろう。


会話の内容を聞いてもこの世界より文明は進んでいるようだが、ヒカリの知識は殆ど役に立たないだろう。




 ようやくヒカリが勇者パーティーに合流する日。アダン殿がこの世界の事を教えているらしいが理解していないのか?ヒカリからはなんの悲壮感も伝わって来ない。


ヒカリには伝わらないのか?


彼女の魔法や知識を担当するアダン殿も呆れていると聞く。オディロン殿下もヒカリが旅立ってホッとしているようだ。まぁ、無理はないな。


アレット達はヒカリが合流してからすぐに魔王討伐に向かう事にしたようだ。きっとヒカリが我儘を言ったのだろう。それでも、無事にアレット達は魔王討伐を終えて帰ってきた。


あぁ、無事に戻って来てくれた。


それだけでも感謝しかない。




 父と母はアレットの帰りを今か今かと待っている。私だってそうだ。そして、勇者パーティーが城へと戻ってきた。私達は前もって城の前で待機している。母は既に涙ぐんでいるほどだ。


だが、それは私達の目の前で起こった。


ヒカリが皆の前でオディロン殿下に抱きついたのだ!!


ありえない。


抱きつくのが許されるのはアレットだけだ。ヒカリの行いに母の涙も止まったようだ。貴族達もヒカリの行動に一同口を開く事なく凝視する事となった。


そして迎えた晩餐会。


出席するのは父と母のみ。爵位を持つ当主、夫人の参加しか認められていないためだ。悔しいが仕方がない。


私は一足先に邸へと帰って行った。



 早く父達からの話が聞きたい。まだか、まだかと待ち侘び、イライラしながら茶を飲み、クールダウンしていると遅くなるはずの2人が早々に青い顔をして帰ってきた。今にも倒れてしまいそうだ。


「父上、どうされたのですか?顔色が悪いですよ」


「あぁ、アレットの事だ。明日でいいか?少し考えたい。明日また執務室へ」


何があったんだ?


あれほど父達が取り乱すなんて珍しい。

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