第12話

 私達は村長にお礼を伝え、最後の村を出て魔王の元に向かった。ヒカリはやはり私達のように野宿や1日中戦闘を続ける事が無かったため、魔の森の道なき道を進んでいるとすぐに根を上げていた。


「ヒカリ、うるさいぞ。もう少しで魔王だ」


「だって疲れちゃったんだもん!でも、Max疲れちゃったけど、イケメン王子のためにあたし頑張るっ!」


そうして何度も声をかけ、励ましながら森の奥深くで魔王を見つけた。



今代の魔王は人型ではなく、大きな山そのものが魔物だった。


「ヒカリ、ありったけの強化した防御膜を」


「分かった!」


ヒカリは私の合図と共に防御膜を味方に掛けて自分は聖結界の中に避難している。魔王は大きいため動きは遅いが1つ1つの攻撃の威力が高く、当たれば致命傷になりかねない。


オノレは端から刻むように、私は中央から叩き込むように剣を入れていく。モルガンは目玉や傷口に魔法を付与した弓を打っていく。ロイクは少し離れた場所から魔法攻撃している。


1つ1つの攻撃はダメージが少ないけれど、何度となく同じ場所を攻撃しダメージを与えていく。


魔王は火山弾や大木で攻撃してくる。その度に私達も傷を負っているがすぐに回復をかけて重症化を防ぐ。


ごくたまにヒカリが全員に回復魔法をかけてくれていたのも大きい。何時間魔王と戦ったのだろうか。



私達は既に魔力切れを起こしながらも剣で刻み続けた。


そして、



ーオオオオオォォォー


地鳴りのような声と共に魔王は動かなくなった。


「… 終わった」


 私とオノレ、モルガンも血塗れになりながらも抱き合い涙を流して今までの味わった苦労が報われた事を喜びあう。ロイクは照れながら『仕方がないですねぇ』と4人で抱きしめあった。


やっと終わった。


倒す事が出来た。


4人ともここに来るまでの過酷な旅の事や死に物狂いになって攻撃した事、苦しかった感情、倒せた事への安堵感から自然と涙が溢れ出ている。


誰もが声に出す事なく、抱き合い涙している。


「アレット!終わったね!みんなすごーい!!格好良かったよ!」


「… … … ヒカリもお疲れ様。ありがとう」


あっけらかんとしているヒカリにまた違和感を覚えるメンバー達。そうして討伐が終わり、城へ連絡を入れて帰る事となった。




 最後に出た村へ入ると村人達は涙を流して喜んでくれた。私達はすぐに城へ帰らねばならず、村人達と惜別の情を抱きながら城へ向かった。


辛かった。


苦しかった。


不安に押しつぶされそうになりながら頑張った。


魔物1つ見た事が無かった私が魔王を倒す日がくるとは。様々な想いが込み上げてくる。私達は村々を繋ぐ馬車を乗り継いで1週間。ようやく王都に着いた。


 王都へ入る門からは煌びやかな馬車が迎えに来ていた。


「うわぁ!凄いね!行きと違って豪華な馬車じゃん。最初から出してくれれば良いのにぃ」


ヒカリはそう言いながらキャッキャとはしゃいで1番に乗り込み、窓側の席に勢いよく座った。


「ははっ。それは仕方がないんじゃないか。陛下達だって出したかったに違いない」


モルガンは笑ってヒカリに答えるがヒカリは口を尖らせている。


「えー。なんで?構わないじゃん。ちょーっと行って帰ってくる、だけなのにぃ」


ヒカリは窓の外を眺めながら口を尖らせている。


「ヒカリ、私達は魔物を退治する旅をしていたの。遊ぶ訳では無かったから仕方がないのよ?」


「そうなの?大変だったんだー」


まるで他人事のように右から左へ聞き流すヒカリと雑談をしている間に馬車は城へと入っていく。



 両側には整列した騎士達。


その後ろには集まった貴族達が報告を今か今かと待っている様子。その1番奥に居るのは陛下や王妃様とオディロン殿下とリシャール殿下。私達は5人揃って陛下達の元へ歩いていく。


あぁ、やっと帰ってこれた。


長かった。嬉しい。


オディロン殿下の姿を見て帰って来た事を実感する。


最愛の人との再会。


嬉しくて涙が込み上げてくる。その様子を見たモルガンが後ろからそっと、


「やっと会えたんだ。みんなの前で抱きついてやれ」


とニヤニヤしながら冷やかしてくる。もう!と少しの恥ずかしさを覚えながらも考えが過ぎる。


 一歩、また一歩と近づく。そうして陛下達の前で私達4人は片膝を突いて帰って来た事を報告しようと口を開いた瞬間。


「オディロン!!!たっだいまぁー!!私の王子様!私の帰りを待ってくれていたのね!嬉しい!」


ヒカリはオディロン殿下に向かって駆け寄り、抱きついた。


えっ…。


ヒカリはそのままオディロン様の頬にキスをしている。


嘘。


 その場に居た者達は一斉にヒカリに視線を向けた。私は突然の事でどうしていいか分からずに動けなかった。


「ヒカリ、オディロン殿下に失礼だ。場を弁えろ」


普段から無口なオノレはパッと立ち上がるとオディロン様からヒカリを引き離し、無理矢理ヒカリに膝をつかせて頭を下げさせている。


私は気が動転しながらも陛下に向けて片膝を突く。


「国王陛下、女神の紋章に誓いを立てた我々は無事に魔王討伐から戻りました。… ようやく魔王を倒しました」


私がそう報告すると同時に騎士や貴族達から一斉に喜びの声が挙がり、地鳴りのように響き渡った。沢山の歓喜の声が聞こえてくる。


ようやく終わったと実感が沸いてくる。


 魔王の恐怖が去り、みんなが涙を流しているわ。そうして私達は陛下と共に神殿へと向かった。王城では今から晩餐会の準備があるのだろう。


忙しなく人々が行き交っているわ。


誰も彼もが魔王の恐怖が去り、喜び浮かれている。

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