第10話

 そして2年が経った頃には皆、無類の強さとなっていたが、4人で魔王に挑むにはまだ足りないのではないかと討伐後も血を吐くような苦しい訓練を自ら課している。


魔王という不安と恐怖に打ち勝つために。


「今日はカネの村で宿を取ります。ここの森は魔の森と言われ、森の奥深くに魔王がいると言われています。


魔王が近くにいるためか魔物達はとても強いので気を引き締めて戦わねばなりません。あぁ、あと定期報告も行いますよ。アレット、殿下への無駄に熱いメッセージ以外で報告はありますか?」


「… ロイク。無いわ」


「無駄に熱いってなんだよ。良いじゃねーか。恋人なんだから。ははっ!聞いてるこっちも恥ずかしくなるがな!」


モルガンは豪快に笑っている。この定期連絡でしか家族に直接連絡を取ってはいけない事になっている。モルガンはたまに家族へのメッセージをガハハと言いながら送ってもらっている。私は家族やオディロン様宛に変わりなく過ごしている事を。


オノレは家族や婚約者に『元気だ』『生きている』など単語だけ送ってもらっている。ロイクは幼少の時に家族を魔物で亡くしているのでメッセージを送る事は無いらしく、国への報告のみになっている。




 そうして村へ到着し、現状把握をして回る。村長と話をしてから宿に着き、定期連絡を入れた。



 いつものように食事をした後、訓練をするために準備に取り掛かっていると、珍しく王城から連絡が来た。


聖女が現れた、と。


一同、その一報に唾を飲む。


… ようやく聖女が。



王城からはマツイヒカリの能力を確認した後、最低限戦えるようにしてからこっちに向かうようだ。





数日後、宿の一室に私達は集まっていた。


「皆集まりましたね。今回の城からの連絡なのですが、もうすぐ聖女紋のマツイ・ヒカリという者がこちらに合流するそうです。


なんでも異世界から落ちてきたらしく、この世界の事をよく分かっていないらしいようです。異世界から来たためか魔力は多い、唱詠無しの簡易魔法は使え、即戦力にはなるようです。


本人の希望もあり、私達の準備が整い次第、魔王討伐へ向かいたいそうです」


ロイクは変わった女だと言いたげな表情で私達に知らせた。


「ようやく5人揃ったのか」


「良かったじゃないか!あとはその娘がどれくらい使えるか、だな!まぁ、俺達は強い!強くなった!大丈夫だろう」


「… そうね。4人で倒せるようにこれまで頑張ったんだもの。5人揃ったなら成し遂げる事が出来るわよ。きっと」


そう口に出して安心感を互いに求める。



 私達が、というより紋章持ちが何故こんなに不安を抱えているのかといえば、過去、魔王に挑んだ勇者パーティーはいくつも全滅しているからだ。


努力が足りなかったと片付けてしまえばそれまでなのだが、女神は人間達から魔王に立ち向かえる者を選び、戦いに向かわせる。全滅したらまた別の人間に紋章を浮かび上がらせ、魔王の討伐へ向かわせる。この繰り返しだ。


魔王自身も勇者達から傷を受け回復するまでに時間がかかる。この場合、時間との戦いとなる。勇者が育つか魔王が回復しきるか。また人間側も勇者パーティーが全滅すると魔王への恐怖や不安が増し、紋章持ちになりたくない者も出てくる。王城に集められ家族と連絡が絶たれるのは逃走防止のためだ。


 今代のアレット達は4人しか紋章持ちが現れなかったせいで歴代の勇者パーティーより過酷な訓練を行う事を強いられていた。万全を期して臨もうとしている私達に不安が無いとは言い難かった。


けれど、5人目が現れた事でホッと安堵している気持ちもある。


「何故、聖女紋のヒカリは魔王討伐へ意欲的なのかしら」


「さぁ、私には分かりませんね。頭に虫が湧いていない事を祈るばかりです」


「ははっ!異世界から来てるんだろ?価値観が違うんじゃねぇか?楽しみだな!」


「… そうだな」


「まぁ、とにかく。聖女紋が来ても私達のやる事は変わらないわ。頑張りましょう」


「「「そうだな(ですね)」」」

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