第9話
そして迎えた出征の日。
謁見の間には国王陛下をはじめ、沢山の貴族達が列を作り私達を見送ってくれているわ。そこには涙を流しながら手を振る家族の姿もあった。
「アレット、生きて帰ってきて来るだけでいい。… それとこれを身につけていて欲しい。アレット、愛してる」
オディロン様はそう言って私に指輪の付いたネックレスを掛けて抱きしめてくれた。温かくて大きな腕に包まれてしまう。
あぁ、このままオディロン様の側にずっと居たい。
私は涙が出てくるのを止める事が出来ないでいた。
「… オディロン様。私も、愛しております。全ては貴方の為に」
お互いギュッと抱きしめてあい、深いキスをして別れを惜しみつつ馬車に乗り込んだ。
「勇者様、この馬車は王都外までとなっています。そこから魔物の討伐をお願いします」
「ありがとう」
「はぁ、アレット。先程の王子との抱擁は止めて欲しかったですね。貴族の皆に示しがつきませんよ」
「良いじゃないか?俺は良かったと思うぜ?貴族は政略結婚が殆どで愛し合っている婚約者って少ないんだろ?良いじゃないか。俺たちは明日さえもどうなるか分かんのだしな!」
モルガンの言葉で皆が納得したように口を噤んだ。
そこからは皆、緊張した面持ちとなり王都外まで一言も話す事は無かった。
「… では。皆様のご武運をお祈りしております」御者は頭を下げて引き返していく。私達は荷物を背負い歩き始めた。
「アレット、初めの町はどこか聞いていますか?」
ロイクは確認とばかりに聞いてきた。
「ピュザンです。王都周辺の村や町で1番被害が出ているそうです。この辺りから魔物の被害が増えてきているらしいと報告は受けています」
そう話をしている矢先に魔物が道に出てきた。私は初めて見る魔物に戸惑い、動きを止めてしまった。
そうなる事が分かっていたのかオノレはさっと剣を取り出し、魔物を切り裂いていく。アレットは初めて見る魔物の切られる様に身体が動かなかった。怖いという思いより魔物が斬られた衝撃で血飛沫が舞い、匂いや臓物が飛び散る様を見て嘔吐く。
「アレット、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」
「仕方がありません。今まで魔物とは縁遠い生活をしていたのですから。新人騎士達も最初はみなそうなります」
オノレはそう言って剣に付いている血を拭き取る。ロイクは魔法で穴を開けて魔物を土に埋めている。私はオノレに清浄魔法を掛けた。
魔物を退治したまま放置していると血の匂いを嗅ぎつけて魔物はどんどん寄ってくるらしい。実戦をこなしつつ、私達は町を目指す。
何度も何度も戦闘が行われるたびにアレットも戦闘にも慣れていき勇者として自覚し、成長していった。
戦闘時は私とオノレが前衛となり切りかかる。声を出し合い、ロイクが唱詠している間にモルガンが矢を打ち込む。ロイクが魔法攻撃をしている間にアレットは怪我をした仲間に回復を掛けていく。
そうやって4人で村々を回り、魔物を討伐していった。
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