第16話 強制参加のお仕事
「おいドレイク、いい加減ランクアップをだな」
「断る。もう少し様子を見る」
「お前は本当に……あぁもう良い、今日はこれを済ませてくれ。ランク3の仕事じゃねぇが、指名依頼って事にしておいた。この距離なら日帰り出来るだろ?」
「分かった」
アレから、数日が経った。
帰って来た子供達を何食わぬ顔で出迎えてみれば、非常に微妙な顔をされてしまったが。
しかし皆弱音を吐く事も無く、今でも冒険者を続けている。
今日は周囲の地形を覚える為に採集依頼を受けた様だ。
非常に順調だと言えよう。
リックは向上心がより高まった様だし、フレンは今できる事を何処までも研ぎ澄ませる努力をしている。
ミーヤは相変わらず二人の面倒を見ながらも、自らを鍛える為に日々ファリアから指南を受けている。
エリクサーの代金を払うと言って聞かないのだが、ソレを渡したのは首有りデュラハンであり俺ではない。
そう押し通して、今の所何とかなっていた。
そもそも余っている物なので別に痛手ではない。
貧乏性のあまりポーションの類を惜しみ続けた結果、最後まで使わず魔王討伐を果たしてしまったのだ。
まぁ、聖女が居たから使い処が無かったというのも大きいが。
「あ、ドレイクさん。今日の依頼は……って、これ。明らかにランクと釣り合っていませんよね?」
「指名という事にした、と言われました」
「はぁ……また支部長ですか。それで、大丈夫ですか?」
「問題ありません」
答えてみれば、受付のリタさんはため息を溢しながらも依頼を受けつけてくれた。
彼女に「行って来ます」と挨拶をしてから背を向けた所で。
「あ、そうだドレイクさん」
「はい、なんでしょう」
振り返ってみれば、彼女は笑顔のまま一枚の用紙を掲げていた。
報告書……と書かれているが、他の冒険者が綴ったものだろうか?
そんな事を思いながら、覗き込んでみれば。
「うっ……」
「これ、間違いなくドレイクさんですよね? 今後こういう行動は控えて下さいね」
内容は、首のあるデュラハンを目撃したと言うモノ。
取り巻きを連れながら背中にはドデカイ大剣を背負い、周りの魔物を蹴散らしながら森を突き進んでいたと書かれている。
しまった、誰かに目撃されたのか。
「いえ、コレは俺では」
「だとすると近場でデュラハンの特殊個体が出たという事になります、これはギルドとしては相当な警戒態勢を取らなければ――」
「すみません、俺です」
「ですよね。光り椎茸を何かのお酒に漬け込むと、なんて話をしていましたもんね。支部長と仲良く雑談するのは良いですけど、私にもそういうお話聞かせてくださいよ。あと光り椎茸、私も食べてみたいです」
「今度持ってきます……」
「えぇ、お願いします。では、いってらっしゃいませ」
再び笑顔になったリタさんに手を振りながら、今度こそギルドの門を潜った。
安易に光り椎茸を御裾分けする約束をしてしまったが、良いのだろうか?
アレを食べると、四時間くらい光りっぱなしになるのだ。
結構強い酒に漬け込むので、昼間食べるのはおススメ出来ない。
飲んではいないとはいえ、酒臭くなってしまうのだ。
そしてもちろん、光る。
仕事に影響が出るどころじゃないだろう。
更には夜食べるのもあまりお勧めできない。
口内が光って眠り辛い、というか眩しくて目が覚めてしまうのだ。
つまり、本来食べるべきじゃない。
そんな代物なのだが……まぁいいか。
色々説明して、食べるタイミングは彼女自身に任せよう。
面白い事には間違いないし。
「まぁ、気にしても仕方ないか」
呟きながら今日も一人、街の外へと足を運ぶのであった。
――――
「それで、今日は何をやらされたんじゃ?」
「別に大した事じゃない、ちょっと怪鳥を狩って来ただけだよ」
「最近森に出ると噂になっている奴か? 随分とデカかったのではないか?」
「あぁ~確かに、普通に見上げるくらいにはあったな。でもそんなに強くなかったぞ?」
「都合よく面倒事を押し付けられとるのぉ」
呆れ顔のミサが、ため息交じりにそんな事を言い放ちながらジョッキを傾けた。
相変わらずおっさんさながらの行為をかましている訳だが、今着ているのは以前変装に使ったスリットの深いドレス。
この格好をしていると、商談がやけに上手く行くとか何とか。
そんな訳で、彼女は度々この姿に変わる様になった。
おでこにお札は貼っていないが。
「あ、そうそう。近くの滅びた街が何やら賑やかになっているらしいな?」
「ん? 何の話だ?」
はて、と首を傾げながら彼女の注文した唐揚げを摘まんでいると、ため息を溢してから他の物を注文するミサ。
帰れば夕飯が待っているし、食べ過ぎない様に気を付けているのが。
酒場に来るとどうしてもツマミは欲しくなる。
「お前は冒険者じゃろうに。少しはそういう情報に敏感になることじゃな」
そんな台詞を吐きながら、彼女は運ばれて来た手羽先に齧りつく。
アレもちょっと旨そうだな……。
ジッと見つめていれば、呆れ顔で一本差し出して来るミサ。
やはり持つべきものは友人である。
「それで? 廃墟がどうしたんだ?」
手羽先を齧りながら聞いてみれば、彼女はフムと一声上げてから腕を組む。
「もちろん旧市街やら何やらは知っているじゃろう? この街の近くにも、いくつかある」
「プレート通りの、ずぶの素人って訳じゃないからな。一応調べてある」
旧市街、なんて呼ばれる街だったモノの成れの果て。
つい最近まで戦争ばかりしていたのだ、そういうモノが周囲にあっても当然だろう。
元々は人が住んでいたはずの領地。
それが争いによって、無人の土地へと変わる事も少なくはない。
「ま、それなら分かるじゃろ。旧市街に魔物共が住み着き、数が増えた。珍しい話では無いが、放ってはおけん。雨風凌げる人工物があり、ゴブリンやオークならば、近くに人が居れば繁殖も容易。それが分かったから、人集めて数を減らすって作戦を実行すると聞いたぞ? ランク3程度なら、お声が掛かるのではないか?」
「初耳なんだが……」
「今ではリックやフレンも居るのじゃ、余計に聞き耳を立てる事じゃな。まぁ何かあればミーヤの奴が報告して来そうじゃが」
確かに彼女の言う通りなのだろう、もう少し噂に敏感にならないと……。
強制的に参加させられるような依頼というのは、冒険者でも結構あるらしい。
国の防衛や、危険度の高い依頼などなど。
その時によって様々ではあるが、無理矢理にでも戦わないといけない場面というのはあるモノだ。
傭兵の経験上、それは当たり前の事であったが。
しかし冒険者はだいぶ自由度が違う。
自身の実力にあった依頼を自分で受けて、後は自己責任。
ここに“強制”という言葉が入るだけで、苛立つ者を少なからずいる事だろう。
「知らんのなら今悩んでも仕方あるまい、明日にでも支部長に聞いてみるが良いさ」
「だな、もしも教えてくれなければ俺一人で行って来ても良いし」
「それは止めい。また仕事が増えるぞ」
ズビシッと指さされ、ふむと顎を引く。
やはり、普通に生きるってのも難しいモノだ。
傭兵時代の様に暴れれば良い訳じゃないし、勇者パーティに居た時の様に少ない仲間達と上手くやれば良いと言う訳じゃない。
なかなかどうして、忙しい訳では無いが考える事は多い。
「ま、むやみやたらに特攻させるような作戦は取らんじゃろうて。それに人が多いなら、今回は付き添いも不要じゃろうよ。いつまでもくっ付いている訳にもいかんじゃろう?」
そう言いながら彼女はビールを呷り、ツマミのピーナッツを此方に飛ばして来る。
「悪い事にならなければ良いが……」
「その悪い事でさえ、経験じゃよ。全ての弊害を親が退けてやっては育つ者も育たたん」
「まぁなぁ……」
どこか釈然としない気持ちで、こちらもジョッキを傾けるのであった。
――――
「なぁ、今日集められたって事はお前達もランク3以下って事なんだよな?」
本日も三人でギルドに向かえば、狼の耳を生やした少年から声を掛けられてしまった。
銀色というか、灰色に近いちょっと長めの髪。
ちょっとボサッとしたイメージというか、まさに獣って感じの髪型。
「えっと、そうですね。俺と妹がまだランク1で、こちらのミーヤさんがランク3です」
「あ、一応3の奴も居るのか。お前が前衛、ランク3の奴が魔法使い。妹の方は……斥候って所か?」
やけにグイグイ来る彼は、興味津々な様子で此方に食いついて来る。
本日はちょっとした緊急依頼の日。
駆け出しやルーキーを集めて、近くの旧市街へと魔物狩りに行くらしい。
集まっているのはそう脅威度の高くない魔物達。
しかし数が多い。
なので、多くのパーティを集めて端から狩ってしまおうと言うモノだった。
予定としては数日間とされていたが、果たして。
「そうですね、とはいえ役割は結構広めで。俺が切り込み役とタンクを兼ねています。妹は斥候メインですけど、近接戦とボウガンを使った中距離戦も得意です。ミーヤさんは魔術師兼斥候というか……」
「リックさん、無暗に他所のパーティに情報を洩らさないで下さい」
狼少年に説明してみれば、後ろからミーヤさんに耳を引っ張られてしまった。
普通に痛い、最近こういった攻撃に遠慮が無くなって来た気がする。
「それで、何の用?」
妹の方も相手を警戒しているのか、バサッとコートをはためかせ内に潜む武器の数々を見せつけた。
下手な事をすれば容赦しないと、言葉にしなくても伝わって来る様な敵意。
だというのに。
「す、すっげぇ……ランク1なんだよな? もう一回、もう一回見せて! 服の中武器だらけじゃん! それでよく斥候が出来るな!」
やけに興奮した様子で、彼は妹に詰め寄り始めた。
なんだろう、こういうタイプには今まで会った事が無いので、どう接したら良いのかわからない。
フレンも意外な反応だったらしく、身を引きながら「も、もう一回だけなら……」とコートを拡げて見せていた。
数々の武器が収めてある服の中を見て、狼少年はスゲースゲーと繰り返しながら覗き込んでいたが。
「リオ! 何やってるの!? 女の子の体を舐め回す様に見るなんて最低だよ!?」
人混みをかき分けてから、大声を上げる女の子が近づいてきた。
見た所、神官だろう。
真っ白い衣服に身を包み、手には装飾の付いた杖を持っている。
そんな彼女は、長い金髪を揺らしながらプリプリと怒っている御様子だ。
「なっ、ちげぇよナオ! 俺はコイツの武装を見てただけだ! お前も見てみろよ、すげぇぞ! 俺もこんな武器とかコートほしぃ……なぁ、コレどこで買ったんだ?」
「お父さんがくれた」
「ぬぁぁぁ、いいなぁ。俺もそんな親父が欲しいぜぇ!」
やけにテンションの高い彼を神官の子が引き剥がし、こちらにひたすら頭を下げて来る。
えっと、リオ君にナオさんで良いのかな?
なんて事を思いながら、曖昧な返事を返していれば。
「すみません、ウチの者が迷惑を掛けまして……」
また、一人増えた。
今度は鎧に身を包んだ男の人だが、そんなに歳は変らない様に見える。
しかしながら、随分と落ち着いた雰囲気を放っていた。
鎧を着こみながらも、スラッとしている見た目。
それに女性受けしそうというか、まぁうん。
そういう顔をしていた。
「えっと、失礼。まだ名乗っていませんでしたね。私はライアと言います、そっちの女の子はナオ、元気なのがリオです。見た通り剣士と神官、そして斥候という組み合わせでして」
「中々バランスの良い組み合わせですね。それで、何か御用でしょうか?」
そう言いながら前に出るミーヤさん。
パーティリーダーなのだ、交渉する為に前に出ただけ。
ソレは分かっているのに、何だか彼女が言い寄られている様でちょっとだけモヤっとした。
「そちらも三人なのですよね? 如何でしょう、臨時でパーティを組みませんか? 斥候二人に前衛二人、魔法使いに神官となればかなりバランスが取れると思います。もちろん、この緊急依頼の間だけで構いません」
「相手の実力も分からないまま組む事は出来ません」
「私がランク3、二人がランク2です。それである程度は察しがつくでしょう?」
そんな言葉を紡ぎながら、彼は困った様に笑って見せた。
間違いなく、俺達の上位互換。
ミーヤさんだけは同ランクだが、それでも彼の言う通り“察しはつく”というものだ。
「いえ、しかし……」
ミーヤさんが言い淀んでいれば、リオと呼ばれた少年が俺の肩を掴んで来た。
「いいじゃん、一緒に行こうぜ! 気に入ったぜこの二人! 歳も近いし、面白そう! 俺リオ! よろしくな!」
「は、はぁ」
そんな訳で俺達は、何だかやけにフレンドリーなパーティに絡まれてしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます