ボクは彼女の舞が好きだった。

 彼女の舞に魅了された、たくさんの人の中のひとりだった。


 本当に美しい舞で。

 今でも覚えている。


 人込みの中、途中から見た舞は、とても美しかった。

 無駄のない自然な動き。流れるような美しさに目を離せなくなる。


 どうしてあんな動きができるんだろう。

 いつまでも見ていたくなる。


 それは血のにじむような努力の賜物で、でも彼女にとって努力ではない。舞うのが当たり前、歌うのがふつうのこと。体が自然に動いているだけのことだった。


 神々に当たり前のように愛される舞。

 彼女はそれをいとも簡単にできた。


 だから彼女が舞うと雨が降る。

 神々の祝福が地上に満ちる。


 日照りが続いて雨ごいの儀式が行われ、99人が舞っても雨は降らず、100人目に彼女が舞うと雨が降った。


 それはそれはよく降った。

 ボクはいつもびしょ濡れだ。


 神々が日照りを続かせていたのに、彼女の舞でそれが解ける。

 彼女が舞うと雨が降る。


 人々が屋根を求めて走る中、ボクは彼女を見ていた。


 世の中を嘆いてでもいるのか

 雨の中、冷めた目で周囲を見ている彼女をそっと見つめていた。


 まるで、精霊が乗り移ったかのような瞳だった。

 感情を失ってしまったかのような瞳。


 喜びも哀しみも欲もない。

 何もかも失ってしまったかのような瞳だった。


 ボクの心は そこから離れられなくなった。


 愛しい人の、美しい舞。

 ボクはそれを見ているのが好きだった。



 そんな人に笛を褒めてもらおうだなんて

 思い上がりも甚だしかったのかもしれない。

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