寝顔を眺めていいですか?


ベッドのなかからふいに現れた腕が、鳴っている携帯を探っている。

まぶしそうな顔を出したのは、まさかのエイル君だった。

人間の……アイドルの。

なんで?


「あとごふん」


しかも甘えた声で二度寝をおねだり。必死に起きようとして、でも目は開いていない。

寝返りをうったせいで、はらりとお布団がはだけた。


「はっ、はだか!」


おおお落ち着くのよ私!

寝ているうちに服を脱いじゃうっていうエイル君の生態については、オタクなら誰でも知ってることじゃない。


それに裸なんてこれまでにいくらでも見てる。

あの雑誌なら3冊買った。もちろん写真集も。

保存用、インテリア用、スクラップ用

いや、眺める用も入れて4冊でした!



だからアンニュイでエロあざとい表情だって存分に記憶に焼き付いているし、なんなら見慣れているくらい。


だけど目の前で、子供みたいな寝顔を見せつけられるなんて聞いてません!予習教材がまったくもってない案件なんです!

どどどど、どうしたら?


うろたえるあまり、真顔でフリーズしてしまった。でも、ふいに呟いた彼の言葉で、あっさり理性を取り戻した。


「ユカ……」


名前ですよね。

女の子の。


「……行くな」


もしかしたら例の……会えなかったことが未練だと言っていた子のことかな。


ふぅと息を吐いた。

切なさよ、出ておいきなさい。

見なかった、聞かなかったことにするから。


とにかく冷静さを取り戻せてよかったと思おう。だって今度叫んでしまったらうまい言い訳はできなかった。

男の子とベッドにいるところを見たらお母さんは泡を吹いて倒れてしまうはず。


そわそわしちゃうから、できれば今すぐベッドを出たい、でもそうすれば彼の眠りを邪魔してしまいそう。

すやすやと眠る顔があまりに無垢で、ずっとみつめていたくなる。

彼女の夢を見てるから、そんなに幸せそうな顔をしてるの?


『そのとなりで私は君の夢を見ていました』


心のなかでそう呟いたら、胸がズキンと痛んだ。

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