離れないでください
いったいどうやったらアウトできるんだろう。その前にどういう状況でインしちゃったっけ。
「インした時と逆のことやってみる?」
「あの時って、背中合わせになってたかも」
人形を知られたうえに手に取られてちょっと動揺した。
落ち着け私……と頭を抱えて部屋を歩き回って、確か振り向いたらもうインしていた。
「背中合わせの逆ってなんでしょうか?」
「抱きあう一択かなぁ」
「それもう最初でやりましたよね」
思い出そうとしたら記憶障害を起こす、それくらいの衝撃だった。
あれをもう一度するのはハードルが高すぎる。
答えを探しあぐねてソファにぽすんと座ると、肩から降りた彼は背もたれのてっぺんで腕くみしてみせた。
「しばらくはこのままでいっか。何も不便じゃないし」
たぶん、困った顔で笑ってるんだろうな。
こんなことになって、平常心じゃいられないはずなのに。
それにしても不思議。
表情が見えないのに、失敗作が一気にハンサム君になった気がする。
「明日も学校だろ?こっちのことは気にしなくていいから、いつも通りにやってね」
エイル君は特殊な状況下にいるからか、疲れも空腹も渇きも感じないらしい。
だから今は彼のことを必要以上案じずに、やるべきことをすませることにした。
そうやって作った時間で何かトライできることを探して、実践してみるしかないから。
「じゃあご飯とお風呂をすませてきますね。10分で戻ります」
「それは無理じゃない?いつも通りやってくれないとこっちも気を遣うし」
「そ、そうですよね」
納得してみたものの、彼が視界からいなくなるのが怖い。なんだかんだの日常を片付けている間に、いなくなっていたらどうしよう。
いやな情報が流れてきたらと思うと、不安が膨れ上がっていくことを押さえきれない。
「あの……でも、常にそばにいてください」
「へ?」
「ポケットのなかは窮屈でしょうか?」
「入れってこと?」
「ダメですか?ここ」
バタバタと部屋着を取り出して、胸ポケットを指差した。
「いいけど、そこに人形入れて家族と飯食うの?頭イカれたと思われない?」
「そこは大丈夫です」
だって今、この家のみんなは知っているから。私が普通ではいられない精神状態だってことを。
愛する推しが瀕死で、何かにすがらないではいられないことを。
海外ではお守りとして持つ人形もある。きっとあれだと思ってくれるはず。エイル君人形は奇しくも不器用な私のせいで国籍不明な出で立ちだし。
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