羊毛フェルトのなかの人
「エイル君どこですか?お願い、返事してください!」
消えた。
エイル君が消えた。
どうして?
そうだ携帯。
続報が来てたらどうしよう!
手が震えて、それが机の上にごちんと音を立て人形君にタックルをして、ひっくり返ってそして。
「痛ぇ……」
しゃべった?
しかもエイル君のイケボが聞こえたような気が。
「これってどんな状況?」
「どんなって……頭がおかしくなりそうな状況には違いないです」
羊毛フェルトのできそこない君が気だるそうに立ち上がって、点検するみたいに屈伸や万歳をして見せた。
「もしかして俺、人形の中の人になってる?」
「えっと……まぁ、そんなふうに見えなくもないような」
何をどうやってもお茶を濁せそうにない。
ふぅと大人っぽいため息をつくエイル君。見た目とイケボがかみあわない。
しかも現状に適応するスキルが高すぎる。
自然とそれを受け入れてしまう自分も怖い。いや、そんなことよりも。
不謹慎だと知りながら、口に出てしまった。
「か、かわいい……」
「全然嬉しくない」
足を投げ出して、こてんと机の上に座ってしまった。ちょっとふて腐れてるのかな。そんな仕草にきゅんとなる。
不細工で失敗作だからこそ、親としては可愛くて仕方ない。そんな子にエイル君が憑依しちゃうなんて、どんな神展開なんでしょうか。キュートすぎてちょっと引く。
「触っても……手のひらに乗せてもいいですか?」
「別にいいけど、俺ずっとこれなの?どうやったらこっから出られるんだろ」
「それは……うーん」
「でも置いてもらうなら人形でいた方がマシなのか」
「そういう問題でもない気がしますけど」
ここにいていいですよって言った覚えはまったくないけれど、確かにこの子のなかにいてくれたら緊張しないですみそう。
「……小さすぎて危険がいっぱいだから、とにかく私から離れないでくださいね」
こんなミニサイズじゃ見失ってしまう可能性だってある。
「どんどんマネージャーっぽくなってくね」
そう言われて更に気が引き締まる思いがした。もうここまできたらオタのエゴなんか捨て去るしかない。
「その状態ならうちに置いてあげられそうです。きっと誰にもみつからないし」
言いながら、もう体は動いていた。
お人形ハウスを作らないと。
いや、世界でひとつのエイル君ハウスを作るの。
どうしよう、ワクワクしちゃう。
小さい頃のごっこ遊びを思い出しちゃった。
「何探してんの?」
「確かここにいろいろあったはずなんです!」
ウォークインクローゼットの奥に大きなケースがいくつかあって、そのなかに初等部の頃の思い出の品が入っていたはず。きっとあれもある。
「ほら!あった!」
みつけて思わず抱き締めたシルバニアファミリーのお家。家具やお人形も続々出てきた!
「やだー、可愛い!懐かしい!エイル君見てくださいこれ」
お人形エイル君が、露骨に真顔になっていた。
「まさかそこに俺を……」
「森のお友達もいっぱいなので、寂しくないですね」
「本気で言ってんの?わぁ、ちょっ!」
有無を言わさずエイル君を手に取った。お人形なら抵抗なく触れられるのもすごくいい!
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