ファンアートに挑戦して撃沈したんです


ソファでゴロゴロしていたはずのエイル君は、いつの間にか勉強机のうえに手をついてこちらに背中を向けていた。



「なにこれ」

「どうしました?」



まさか、致命的なものがみつかってしまったとか。

書かずにはいられなかったポエムやファンレターの下書きをしたためたノート?それとも「聖なる書物」?(と呼んでいるアルバム)

どれにしたって生きた心地がしない。



「こいつ……弟にそっくりなんだけど」

「こいつ?」



近くに行くと、エイル君は机の横にちょこんと座らせていたお人形に釘付けになっていた。


「お人形ですか?」


それ、エイル君を模してチャレンジしたもののうまくいかなかった失敗作なんです。



SNSでみんなのファンアートを見て感動のあまり自分も作ってみたくなったんだけど、何をどうしたらこうなった?と自問するくらい、へんてこになってしまって。



もちろんまったく似ていない。それなのに、思い入れがありすぎて捨てられずにいた人形だった。

そんなものが弟君に似ているって、ちょっとした事件じゃないかな。



二人は全然似ていないらしいってファンの間で噂になってたけれど、あれはほんとうだったんだ。

このお人形(失敗作)に似てるって、実のお兄ちゃんが断言したんだもの。

弟さん……なんだかごめんなさい。私が不器用なのが悪いんです。



どうにか軌道修正できないかなと粘りに粘ったけど、やればやるほど理想図とはかけ離れ(しかも小太りになっていき)、結局へこんで強制終了させた中途半端な代物。



グッズを持ち歩く勇気がないからこっそり鞄の内側にぶらさげて、いつでもエイル君と一緒だっていう気持ちを味わいたかっただけなのに、結局日の目を見せてあげられなかった。



でも愛着だけはあって、喜びも悲しみもこれまで日課のようにこの子に語りかけてきた。

そんな子をエイル君は手に取ってしまうなんて……大丈夫かな。

針でちくちく刺して作ったし、語りかけていたせいで妖怪化していたりして。



あの子は私の心の化身……言わば煩悩だらけなのに。

彼の危うい身体や精神状態に悪影響をおよぼしたらどうしよう。



頭を抱えていて異変に気づかなかった。振り返ったら……エイル君がいない!

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