ちょめちゃん


「あのっ、搬送されたときのこと覚えてませんか?聞こえてきた声とか……」



彼の記憶に何かヒントがあるかもしれない。そう思ったら声のボリュームがおのずと最大出力になる。



「わかんない。うまく思い出せない」

「どうやったら元に戻れるんでしょう」



だってもどかしすぎる。

このまま何もできないなんて。

そのとき、携帯にメールの着信音が。相手は、まさかのちょめちゃん!



「もしかして続報が来た?」

「いえ、友達です」


正しくはネッ友でオタ友。

何か有力な情報があったのかもと、エイル君に背を向けて即レスした。


87はなちゃん!生きてる?》

《なんとか(ToT)》

《だよね(T^T)》


目頭が熱くなる。

彼女と今、きっと同じ気持ち。

ちなみに87ちゃんていうのは私のこと。

続けてメッセージを打った。



《エイル君、今どういう状態なんだろ》

《情報はいくつか回ってきたけど》

《うんうん》

《信憑性があるかわかんないのが現状かな》

《そっかぁ》



情報通の彼女が困惑している姿が目に浮かぶ。いやいや、会ったことはなかったな。


《どこの病院なんだろう》

《知ってどうするの?》


今ここにいるエイル君が病院で眠っているエイル君と対峙したら何か変化が起こったりして……って、実はずっと考えていたんだよね。


《特に意味はないんだけど》


でも口に出すことはできない。

ちょめちゃんに相談できたらいいのに。



ちらりと後ろを振り返る。

エイル君、もう少しだけ待っててね。必ずあなたを帰してみせるから。



ちょめちゃんは同い年だけど、たくさんのSNS仲間がいて私なんかよりはるかに情報を掴むのが早い。

彼女にとって私はたくさんいるネッ友のなかのひとりだろうけれど、SNSでも人見知りを発動しちゃう私にとっては貴重な友達だった。



一度会ってみたいなぁ、なんて思ったこともあるけど、私から言うと重くなりそうで口にしたことはない。

でも会おうよ、って言われたら緊張するけど会いに行きたい。

ライブ前に初会っていうのが理想かも。

ちょめちゃんとは、そんな距離感も心地いい。


《新しい情報が入ったら連絡するね》

《だね。トレンドになってるからこれからもっといろいろとわかるかも》


《情報漁ってみる!》

《おけ。じゃあまたあとで!》



画面を閉じて、後ろに意識を戻した。

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