がんばる!

「そういえばこのポスター……」


ふと、真っ白な紙になってしまった壁に目が行った。


「ここにまた入れないか、やってみませんか?」

「マジで?すげー窮屈だったんだけど」



公式プロフィールだと彼は身長182cm。

確かにここに押し込むのは無理がありそう。



生まれ変わったら彼に摂取されるカルシウムになりたいと何度思ったかわからない。

でもそんな自分にさよならしなくちゃ。

それくらいの覚悟がないと約束を果たせそうにない。



「ちょっと試すだけなので」

「なに?なんでそんな迫ってくんの?」

「失礼を承知でエイル君を押し倒しますね。壁の向こうに」

「その日本語おかしいよ?」



頭のおかしい奴だと思われてもいい。だって生き続けて欲しいんだもん。



じりじりと壁際へ追い詰めて彼に触れようとしたら、なぜかその手をあっさり掴まえられてしまった。



「こういうのは逃がしたくないときにやるんだよ」

「そうなんですか?知らなかった……」

「てことはここにいてね、ってことだよね」

「それはちょっと強引じゃ……」

「強引なのは羽奈ちゃんの方だよ」



そう言われてはっとした。

なんて失礼なことをしてしまったんだろう。


「意外と大胆だよね」


それなのに掴んでいた手をそっと離して、優しく頭を撫でてくれた。


「俺のためにいろいろ考えてくれてありがとう。新米マネさん」


今のは、なに?

頭を、よしよししてもらえたのかな。

褒められたのかな?


「でもさ帰ってくれってことだよね。そんなに俺といたくない?」


「そうじゃなくて……きっと時間の制限だってあると思うから」



何もおかしなことは言っていないはずなのに、口をへの字に曲げてしまった。



「だからそれがシンプルに早く帰れ、って聞こえるわけ」

「そうです。その通り」



帰って、生きて、輝いてほしい。



「拒絶されたことってあんまないんだけど」

「ですよね」


どちらかというと、する側の人生なはず。


「なんかモヤモヤする」

「どうしてですか?」

「絶対的にここにいなきゃいけないような」

「はい?」

「羽奈ちゃんが俺のこと好きになるまで帰っちゃダメなような」

「ん?」

「アイドル的にも」



確かに人をとりこにするのがエイル君のお仕事だけど。


「ここでプロ根性を発揮しなくてもだっ、大丈夫ですので!」



うつむいて顔を隠して、どうにかそれだけ呟いた。だってエイル君のことはもうずっと前から大好きだから、そんなことする必要ないよ……なんて言えない。

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