ほのぼのしていいのでしょうか

「えーとあの……お茶を持ってきます!」


焦るあまり、尊いその手をこっちから離してしまった。

最悪だ……感じが悪すぎる。

最終的に拒絶したみたいな形になってしまった。


「じゃあ俺ココアがいい」


不穏で不自然な空気を変えてくれたのは、そんな彼の一言だった。

なんにもなかったような、自然な口調の。


「甘いの好きなんだ。お菓子のCMもやってるし」

「それ、うちにあります」


チョコラボなら毎日食べてます!


「マジ?じゃあ一緒に食べよう」


弾むような声のおかげで、さっきまでの自己嫌悪はどこかへいってしまった。


「ちょうど休憩したいなと思ってた」

「じゃあすぐに準備するので待っててください」


勇気を出してなかなか直視できなかった顔を見た。


「あの、ありがとうございます」

「ご馳走になるからお礼を言うのはこっちじゃん」


ううん。ちゃんとお礼を言いたかった。

だってエイル君はさっきの失態を、見ないふりしてくれたから。



おやつを取りに行くと、階下ではお母さんが涙目になっていた。

部屋にこもった娘の気持ちを、私以上に汲んでくれていたんだ。



「羽奈、あのね」

「お母さん、私なら大丈夫だから」

「ほんとに?ショックでしょう?」

「でもエイル君は今生きてるから。それは私にとって希望でしかないから心配しないで」



二階にエイル君がいなかったら、こんな余裕のある言葉は出てこなかった。たぶん泣いてた。わーわー泣いてたはず。

明日は学校を休んでも構わないって。

お母さん、ありがとう。

その優しさを胸にしまっておくね。



お菓子を準備するために降りてきたのに、美琴さんがもう飲み物まで揃えてくれていた。


「今お持ちするところでしたのに」


テーブルには和洋を問わず私の好きなスイーツばかりが並んでいた。


「ううん、今日はこれがいいの。いつもありがとう」


広いテーブルのうえに、優しさがいっぱい。何も聞かないでいつも通りに微笑んでくれるそんなみんなのことが大好きありがとう、って、心のなかで噛みしめた。

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